野心的でハイエンドなドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」。シーズン3の見どころを徹底レビュー! - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
野心的でハイエンドなドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」。シーズン3の見どころを徹底レビュー!

コラム

野心的でハイエンドなドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」。シーズン3の見どころを徹底レビュー!

星の獲得を目指し、狂気的なルールを定めてしまうカーミー

しかし、これはまさに嵐の前の静けさなのだ。すぐに混沌とした喧騒が戻ってくる。「The Bear」をオープンさせたカーミーは、星を獲得することを目標とし、新ルールとして「絶対服従」を掲げて「一流」への道を突き進む。とりわけ「毎日メニューを全部変える」という、単純に考えても狂気としか思えない方針を貫き、周囲を戸惑わせる。シーズン2で腕を上げたとはいえ、キッチンは凄まじいプレッシャーにさらされ、見ているだけで神経がすり減ってくるようだ。一流のレストランとは、それほどまでに人生のすべてを捧げなければできないものだというのはわかるが、ニューヨークでの日々に逆戻りしたかのようなカーミーの姿に不安と疑問を覚える人も多いに違いない。本当にこれが「The Bear」にとって最善の道なのか?せっかく作り上げたスタッフとの絆、さらにはクレアの存在さえ遠ざけてしまう。

「The Bear」の目標として、カーミーは星を獲得することを定める
「The Bear」の目標として、カーミーは星を獲得することを定める[c]2024 Disney and its related entities

一切の妥協を許さないカーミーに一流のシェフとしての業を感じる一方で、店の経営という現実的な問題が立ちはだかる。シーズン3では、「The Bear」のメンバーたちが過ちを繰り返しながらも、それぞれの過去やトラウマと向き合い、いまの自分になにができて、本当にやりたいことはなんなのか、どう生きたいのかを改めて見つめ直す。ある意味では走り続けた過去2シーズンを受けて、ギアをチェンジしたり、少し足踏みをしている状態を描いているかのようでもある。そうした各人の状況をあらわすかのように、全10話のすべてが1話ごとにテンポも作風も異なる作品を見ているかのような感覚も。それはシーズン全体として、同じ料理を出さないというカーミーのポリシーと、野心的でハイエンドな料理の数々と重なるものがある。そこに人間関係のパワーバランスの変化と、これも語りがいのある要素だが映画史からの引用も交えた作風は、無謀な挑戦でもあっただろうが、見事にやり切っているところに感動を覚えずにはいられない。

カーミーが定めた新ルールにスタッフたちは戸惑うばかり
カーミーが定めた新ルールにスタッフたちは戸惑うばかり[c]2024 Disney and its related entities

ティナの過去を掘り下げながら、亡きマイケルの人となりにも迫る第6話「ナプキンズ」

なかでも突出したエピソードとして、第6話「ナプキンズ」と第8話「アイス・チップス」の2つを挙げることができるだろう。前者は、ベテランスタッフのティナが、生前のマイケルが取り仕切るサンドイッチ店「The Beef」で働くことになった経緯を描いており、シドニー役のアヨ・エデビリが監督を務めている。基本的にティナの人生で最もつらい時期にフォーカスした物語となっているが、ティナとの出会いを通して、マイケルの本当の人となりを端的に伝えるエピソードとしても優れている。マイケルについては、これまでにも断片的に描かれてきた。その短い時間であっても、ジョン・バーンサルの役作りは巧みで心惹かれるキャラクターとして印象に残るのだが、ここでついに謎に包まれていたカーミーとの関係性や、彼がどんな思いを抱えていたのかが映像やセリフ、演技を通して端々から伝わってくるようで胸に迫るものがある。

マイケルの本当の人となりを端的に伝えるエピソードとしても秀逸な第6話
マイケルの本当の人となりを端的に伝えるエピソードとしても秀逸な第6話[c]2024 Disney and its related entities


人生を前に進める希望も感じさせる第8話「アイス・チップス」

第8話「アイス・チップス」は、ナタリーの出産をめぐるエピソード。病院に運ばれたナタリーと、娘に付き添う母親ドナ(ジェイミー・リー・カーティス)のほとんど二人芝居のような会話劇として約40分間を描き切る。シーズン2の第6話「フィッシズ」で初登場した過去のドナは精神疾患を抱えており、家族が集まる場で感情の嵐を爆発させて強烈な印象を残した。カーミーら子どもたちとの親子関係に、いかに埋め難い溝があるのかは、こちらも少ない登場シーンでよく伝わるものがあった。だからこそ、ドナの心からの言葉がナタリーに通じ、母親としての自分をドナ自身が受け入れ、認めて涙を流す。それこそが、マイケルの死の影が常につきまとう本作において、真の意味での希望の光をもたらす瞬間かもしれない。それはとても美しく、過去としっかり向き合うことで人生を前に進めていくという、シーズン3のテーマを象徴するエピソードと言えるのではないだろうか。

ナタリーの出産をめぐる第8話「アイス・チップス」
ナタリーの出産をめぐる第8話「アイス・チップス」[c]2024 Disney and its related entities
ディズニー作品だけじゃない!高品質なエンタメのオンパレード。特集「ディズニープラス」【PR】
作品情報へ