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【ネタバレレビュー】現代に描かれた「七夕の国」が突きつけたメッセージ「いまだからこそ染み入る、最終話のナン丸の言葉」

コラム

【ネタバレレビュー】現代に描かれた「七夕の国」が突きつけたメッセージ「いまだからこそ染み入る、最終話のナン丸の言葉」

ディズニープラス「スター」で独占配信中の、「寄生獣」や「ヒストリエ」などで知られる漫画家・岩明均の怪作を実写ドラマ化した「七夕の国」がついに最終回を迎えた。本作では、 “念力で物に小さな穴をあける”というなんの役に立たない超能力を持つ大学生のナン丸(細田佳央太)が、調査旅行中に行方をくらませた民俗学教授、丸神正美(三上博史)の消息を追ううちに、街や人をも丸くエグってしまう恐ろしい“球体”をめぐる事件解明に巻き込まれていく姿を描きだしてきた。回を追うごとに散りばめられた伏線が回収され、 球体=“窓の外”を作りだす能力を持つ“手が届く者”、ある悪夢を見る“窓を開いた者”が生まれる“丸神の里”で、徐々に真相が明らかにされていく様に多くの視聴者がクギ付けとなった。

秀逸なミステリー要素と共に見どころなのが、楽観的で、自身が持つ能力をどうやって就職に活かせるか?といったことばかりに興味を持っていたナン丸が、しきたりに捉われた里の者たち、 “窓を開いた者”である幸子(藤野涼子)や、東京で球体を用いた殺人事件や破壊行為を行うかつての神官、丸神頼之(山田孝之)らと関わり、等身大の若者なりの“答え”を見つけていく姿をはじめとした、それぞれのキャラクターにおける奥深い人物描写や、生き方における哲学を突き付けるようなメッセージだ。

ナン丸が導きだす答えとは?
ナン丸が導きだす答えとは?[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

これまでMOVIE WALKER PRESSでは本作の全話レビューをお届けしてきたが、最終回はレビューを執筆してきたライター陣と編集部員による座談会形式でお届け。監督やキャストへのインタビューも担当したライターのイソガイマサト、SF作品やVFX、特殊メイク表現などに精通する神武団四郎、今回のドラマ化を機に初めて「七夕の国」に触れたMOVIE WALKER PRESS編集部員の別所樹が、最終回で頼之の真の目的を知ったナン丸が導きだす答え、より深く人間性を深堀りされたキャラクター描写や、メッセージ性に対する想いを語り合った。

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

「連載当時ならではの描写を、現代的に翻訳する仕方もうまかった」(神武)

人工的な形の奇妙な山々に囲まれた“丸神の里”。そこにはある秘密が隠されていた
人工的な形の奇妙な山々に囲まれた“丸神の里”。そこにはある秘密が隠されていた[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

イソガイ「まずは『七夕の国』全10話を観た率直な感想から始めましょう」

神武「僕は原作コミックよりドラマチックになっていると思いました。ナン丸はもちろん、ほかのキャラクターもうまい具合に膨らませて、それぞれの見せ場を作っていたし、最初のほうは謎解きを主軸に話を進めていく印象でしたけど、人間関係もかなり突っ込んでいたので、そこがすごくおもしろかったですね」

別所「私はドラマ配信前に初めて原作漫画を読んだのですが、謎解きを中心にしながらも、ライトに読み進められるエンタテインメント作品だと思いましたが、神武さんがいま言われたように、実写版は人間ドラマがより掘り下げられていて、号泣してしまったシーンもありました。しかも第1話から“つかみ”がうまかったので、一気に物語に引き込まれましたね。里の秘密を少しずつ解いていく展開は、まるで丸神ゼミの講義を受けているようでしたし、登場人物と一緒に納得しながら楽しむことができました」

遥か昔から、丸神の里の人々は外部からの侵略を決して許さなかった
遥か昔から、丸神の里の人々は外部からの侵略を決して許さなかった[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

イソガイ「僕はもともと原作を読んでいて、本当に忠実に丁寧に作られているなと思いました。例えば別所さんが言っていた第1話では、遥か昔に丸神の里で行われた合戦の様子が描かれていましたが、現代パートを挟んでからラストに丸神の里の当主の手がクローズアップされて、その異様な造形に『なんだこれは!?』となりますよね。こんなふうに毎話ラストで気になることが起きて、視聴者の期待を煽りながら次の回につなげていく構成も絶妙でしたし、それでいて全10話で完結するボリュームもちょうどいいなと思いました」

神武「たしかにそうですね。ちなみに、岩明均さんが原作のコミックを描かれたのはいつごろでしたっけ?」

別所「1996年から99年にかけて連載されていましたね」

神武「そうですよね。原作が書かれた当時の時代を反映した描写を、ドラマ化において現代的に翻訳する仕方もすごくうまかった。上杉柊平さんが演じる幸子の兄、高志が行う新技能啓発セミナーの描写も、2024年のいまの時代にも“こういう怪しげなセミナーってよくあるよね”と思えるものだったり」

高志、八木原にそそのかされ、「新技能啓発セミナー」で力を披露することになるナン丸
高志、八木原にそそのかされ、「新技能啓発セミナー」で力を披露することになるナン丸[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

別所「ナン丸が所属している新技能開拓研究会も、フォロワーの少ないSNSアカウントを作っていたり(笑)」

イソガイ「そこにリアリティが感じられないと、不可思議なことが起きても驚けないですからね」

神武「ナン丸が超能力を使って紙に穴を空ける時の『ちょわあああ!』の叫び声も意外にハマっていました(笑)」

別所「あの言い方は最高です!」


ナン丸がハマり役だった細田佳央太
ナン丸がハマり役だった細田佳央太[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

神武「『原作のイメージそのままじゃん!』って思いつつ、観ちゃいましたよ(笑)。キャスティングもよかったですね」

イソガイ「ナン丸を演じた細田さんもピッタリでした。原作のよさを残しつつ、現代の若者らしいキャラクターになっていましたからね」

別所「ナン丸のキャラクターでいうと、彼はせっかくの超能力を全然活用できなくて、フラストレーションを抱えていたと思うんですよ。でも、高志に使い方を教えてもらって、あのセミナーで披露した時に初めて“人に認められる”喜びを感じたんじゃないですかね。その気持ちにはすごく共感したし、それを味わわせてくれたのは高志だから、彼が詐欺や悪いことをしても最後まで憎みきれなかったんじゃないかなとも思いました」

高志は自身が頼之に教えてもらった方法を用い、ナン丸に能力のノウハウを伝授する
高志は自身が頼之に教えてもらった方法を用い、ナン丸に能力のノウハウを伝授する[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

最期には、妹の幸子へ想いを伝えようとした高志
最期には、妹の幸子へ想いを伝えようとした高志[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

神武「僕はナン丸から決別を切りだされた時の高志のリアクションが好きでしたね。原作よりさらに危険で怖いキャラクターになっていたから、キレるのかな?って思ったんですけど、ふてくされて『出てけ!』って言いますよね。あの感じがなかなかよくて。上杉さんが、回を重ねるごとに実は人間臭い高志を巧みに表現しているのがすばらしいと思いました」

別所「頼之の前だと子どもっぽくなって、どんどん調子に乗るあたりもおもしろかったですね(笑)」

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