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【ネタバレレビュー】現代に描かれた「七夕の国」が突きつけたメッセージ「いまだからこそ染み入る、最終話のナン丸の言葉」

コラム

【ネタバレレビュー】現代に描かれた「七夕の国」が突きつけたメッセージ「いまだからこそ染み入る、最終話のナン丸の言葉」

「民間伝承にまつわる出来事を、SFっぽい設定で描いているのがおもしろい」(イソガイ)

別所「丸神の里と呼ばれている丸川町の人々には、どんな印象を持ちましたか?」

イソガイ「個人的には、不穏な空気を出しているあの町の人たちには、同じくスター作品である『ガンニバル』に登場する、供花村の村人たちが重なりました」

優しいのにどこか不自然…?丸川町の人々
優しいのにどこか不自然…?丸川町の人々[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

別所「でも、『ガンニバル』しかり、“ムラもの”と呼ばれる作品に登場する村人たちは、なにかしらの悪意を持って行動している気がするんです。ただ丸川町の人たちは悪意では行動していないじゃないですか。彼らは自分たちの掟が絶対に正しいと思っていて、その考えが揺るがない。“カササギ”による洗脳度の強さや、神のように信仰する町民たちの盲目的な感じが、『ガンニバル』の村人たちよりも私はある意味で怖く感じました」

イソガイ「田舎には古くから伝わるお祭りや信仰があって、それを守ろうとする村人たちと移住者との間に摩擦や衝突が起こるという話をよく聞きます。本作はそんな昔からある民間伝承にまつわる出来事を、SFっぽい設定で描いているのがおもしろいんですよね」

1000年にもわたる祭りを欠かさず行い続けてきた
1000年にもわたる祭りを欠かさず行い続けてきた[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

神武「狂信的でなくても、信仰や伝統を守る人は守るし、そうじゃない人もいる。そこは我々の社会でも同じだと思うんですよね。お盆になるとちゃんと墓参りをしたり、お供えをする人もいるけれど、そこをあんまり気にしない僕みたいな人間もいる(笑)。そんな価値観の違いみたいなものも、本作の設定にはうまく組み込まれている感じはします」

「山田さんは、ただ立っているだけなのに気持ちが伝わってきます」(神武)

イソガイ「そんな丸神の里の信仰心を絶対的なものにしている中心人物が、丸神頼之です。原作そのままのビジュアルで登場しますが、特殊造形のマスクを被っているから演じている山田孝之さんの顔はほぼ観ることができません」

特殊メイクとVFXを組み合わせて表現された頼之のビジュアル
特殊メイクとVFXを組み合わせて表現された頼之のビジュアル[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

神武「頼之のデザインはけっこう原作を尊重したものになっていたし、そこに瀧監督のこだわりを感じました。CGで眼球を動かしたり、瞬きをさせているのもよかったですね」

別所「高志が死ぬシーンでも、目を伏せた表情から悲しみが表情が伝わってきたし、声と佇まいだけでお芝居を成立させている山田さんは改めてスゴいと思いました」

神武「ただ立っているだけなのに気持ちが伝わってきます。あの山田さんのオーラはなんなんでしょうね!」

イソガイ「頼之も最後まで迷っていたような気がします。でも、最終的にはああいった選択をするわけですが、頼之の心情や行動についてはどう思いました?」

神武「僕はドラマを観る直前に原作を読んだんですけど、その時は頼之のキャラクターが理解しきれなくて。なにかに縛られていて、そこから脱しようとしている人ということは把握できたものの、そこまで感情移入できなかったんです。でも、原作にはない幸子たちの母親、朝比奈彩さん演じる由紀子が登場する回想シーンで、素顔に近い頼之を見た時に彼の個人的な気持ちが伝わってきて“ああ、なるほど”って思えたんですよ」

【写真を見る】ほぼ素顔を見せずに頼之を演じきった山田孝之「声と佇まいだけでお芝居を成立させている」
【写真を見る】ほぼ素顔を見せずに頼之を演じきった山田孝之「声と佇まいだけでお芝居を成立させている」[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

イソガイ「あの回想シーンはラストの伏線にもなっているし…」

別所「頼之という人を理解するうえでもいいシーンですよね。彼は原作でももちろんただの悪役ではなかったけれど、ドラマでは人間らしさがより際立っていて。クライマックスの“窓の外”に行く直前にも、頼之の脳裏に由紀子の顔がフラッシュバックしますが、あのシーンがあることで頼之という人間の見方が変わって、感情移入ができるのがいいなと思いました」

高志と幸子の母、由紀子。ドラマオリジナルとして頼之との関係が描かれた
高志と幸子の母、由紀子。ドラマオリジナルとして頼之との関係が描かれた[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

神武「そうですね。原作のラストはどこか“鎖を解き放つ”というところに特化していた印象でしたけれど、“窓の外”に行けば由紀子に会えるんじゃないか?というほのかな期待があるから、そのうえでああいう決断をしたのかもしれない。それを山田さんがうまく表現していたような気がします」

「織姫と彦星のようなカップルたちがそれぞれの結末を迎えていて、本作にふさわしい見どころでした」(別所)

イソガイ「タイトルの『七夕』を連想させる、ロマンチックな要素もドラマは原作より強くなった気がします」

別所「会いたいけれど、会えない。結ばれたいけれど、結ばれない関係性の人たちがほかにも出てきましたからね」


最終回で描かれたナン丸と幸子のその後に、あなたはどんな感想を持つ?
最終回で描かれたナン丸と幸子のその後に、あなたはどんな感想を持つ?[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

イソガイ「それこそ、ナン丸が幸子に言う『君のいる手前にモヤみたいなものがあるんだよ』というセリフは天の川を連想させます」

別所「私は最終話を観た時に、“これがナン丸と幸子の幸せの形なの?”とも思ってしまいました。幸子は丸川町を結局出ないし、ナン丸は七夕の彦星のように丸川町に通うような関係で終わっていましたからね」

神武「原作でもなんの説明もないし、ナン丸は東京に生活の拠点があるみたいですしね」

イソガイ「ナン丸は七夕の時しか会いに行かないんですかね?」

別所「もっと会ってはいるかもしれないけれど、一緒に暮らす選択はしなかったんでしょうね。結局は丸神の里でも祭りは続き、“カササギ”を待ち続ける…簡単には人々は変わることができなかったですし」

神武「ただ、2人ともまだ若いから、これから関係性も変わっていくかもしれません。未来に可能性を残しているとも考えられますね」

イソガイ「ナン丸たちとは対照的に、江見先生は結婚はしないまでも、丸神教授が住む丸川町に引っ越していたのもよかったですね。江見先生らしいと思いました(笑)」

一途に丸神教授を思い続けた江見
一途に丸神教授を思い続けた江見[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

丸神教授は神官として里に残り続ける
丸神教授は神官として里に残り続ける[c] 2024 岩明均/小学館/東映 岩明均「七夕の国」(小学館刊)

別所「そういう意味では、織姫と彦星のような関係の3組のカップル、ナン丸と幸子、丸神教授と江見先生、頼之と由紀子がそれぞれの結末を迎えていて、そこも『七夕の国』という作品にふさわしい見どころだったなと思います」

構成・文/イソガイマサト

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