福山雅治と役所広司、『三度目の殺人』で考えた法廷での命の重み

インタビュー

福山雅治と役所広司、『三度目の殺人』で考えた法廷での命の重み

『そして父になる』(13)の是枝裕和監督作『三度目の殺人』(公開中)で初共演した福山雅治と役所広司にインタビュー。本作は心の闇の深淵に迫る心理ドラマで、善悪をきっちり提示する王道の法廷サスペンスとは一線を画する。弁護士役の福山を、謎めいた殺人犯役の役所が揺さぶり続けていくというやりとりが見ものだ。

今回福山が演じた弁護士・重盛も、理路整然と持論を語れるクールな自信家である。真実よりも依頼人の利益を優先させるリアリストだったが、役所演じる殺人犯・三隅の供述が二転三転していくことに戸惑いを覚えていく。

福山と役所が対峙する接見シーンでは、ふたりの俳優としての存在感が拮抗し、息を呑む。福山は役所について「心地良く揺さぶっていただき、僕はあの世へ連れていっていただいた」と笑う。「僕がさぼったわけでも楽をしていたわけでもないんですが、役所さんがこの作品で求められているところに導いてくださるので少々甘えてしまいました」。

弁護する立場の重盛だが、じわじわと三隅に心をかき乱されていく。やがて重盛の目線が「真実を知りたい」という観客と同じ立ち位置に追いやられていく点が興味深い。福山が「役所さんの揺さぶりに反応することは勉強になりましたし、僕にとってはうれしい現場でした」と言うと、役所は「揺さぶったつもりはないんですが」と苦笑い。

「福山さんがしっかり受け止めてくれるからですよ。僕は僕で福山さんのリアクションを見たり感じたりしながら三隅を作っていったわけです。僕だけが揺さぶっていたわけではないですから」。

福山が「いろいろな感情が湧き出てくるんです。イラっとしたり、え?何言ってるの?と不安になったり。とにかく心がざわざわとさせられました」と言うと、役所も「それが監督のいうところの“揺さぶり”だったんでしょうね」と静かな笑みを浮かべる。

30年前にも強盗殺人の前科がある三隅は、2度目の殺人で死刑が下されるかもしれない立場だ。三隅が裁判官という職業について「人の命を自由にできる」と述べるくだりにドキリとさせられる。是枝監督は本作で、人を裁くとはどういうことか?と、司法の価値観さえも揺さぶってくるのだ。

福山は本作を「この社会の一員としての自分に返ってくる作品」だと捉えた。「もしかしたら自分の中にも三隅的な要素があるのかもしれないと思えてしまう。もちろん重盛的な自分もいるんですが。三隅的に考えれば、確かに裁判官は人の命を自由にできる存在だとも思えてくる部分はある。とにかくいろんなシーンや台詞、映画のテーマが、そのまま自分に返ってくるんです」。

役所は三隅役を通して「人間は自分が気づかないほど多重構造で、みんなそういう面をもっているんじゃないか」と感じたという。「みんながそうなんだと思います。ただ、いろんな部分をさらけ出してないだけかなと。本作を客観的に観客として観た時、弁護士や検事、裁判官というのは、人の命に関わる仕事なんだなと改めて思いましたし、法廷はよくよく考えるとぞっとする空間なんだなとも思いました」。

是枝監督自身も試行錯誤しながら何度も脚本を改稿し、現場でもかなり変更して撮り上げたという『三度目の殺人』。福山と役所ら実力派俳優陣の真に迫る演技が、しっかりとくさびを打ち込んでくる力強い作品となった。【取材・文/山崎伸子】

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