“Kホラーの巨匠”チョン・ボムシク監督が明かす、恐怖演出の秘訣「山道を役者の後ろから追いかけて…」
「鬼ごっこやかくれんぼといった児戯には、恐怖の要素を感じます」
――北米を中心とするA24作品や北欧ホラーなど、世界各国でアート要素が強かったり、奇抜な設定のホラー作品が生まれていますが、現在のホラーシーンをどのように見ていますか?
「私のデビュー作である『1942奇談』は“美しくて悲しいホラー”と評価されました。 ホラー映画と一口に言っても二つに分けられます。エンタテインメント性の強い、アトラクション性の強いもの。もう一つは、永遠に消えない衝撃を与えるような強いイメージや状況を羅列したもの。後者は好き嫌いが分かれると思いますが、ホラー映画も様々な分化が進んでいるようです。私はポジティブな変化が起きていると思います」
――『コンジアム』のような、POV形式で描く恐怖表現の魅力はどのような点にあると思いますか?
「実際に存在するような臨場感ではないでしょうか。監督の立場からすると、普通の劇映画よりもモキュメンタリーを上手く作るほうが難しいと思います」
――映画を作るうえでの原体験、ルーツのようなものがあれば教えてください。
「幼いころ、親戚の弟たちと集まって遊んだ原始的な恐怖を感じさせる児戯、そしてヨーロッパや日本の古典芸術映画が私の映画作りのルーツだと思います」
――原始的な恐怖を感じさせる児戯というのは、どういった内容なのでしょうか?
「恐らく世界中であまり違わないと思います。いわゆる鬼ごっこやかくれんぼですね。私の甥っ子や姪っ子はアメリカにいるのですが、アメリカにも似たような遊びがあります。隠れながら鬼を探したり、タッチされたら鬼になったりというものです。追いかけられる側からすれば、子どもながらに恐怖すると思います。また、日本にも韓国にも『だるまさんが転んだ』という遊びがありますよね。これにも恐怖を感じる要素があります。そういう子どものころの遊びは、ホラー映画のいいアイデアになることが多いです」
――先ほど、ホラー映画にはほとんど恐怖を感じないと仰っていましたが、ボムシク監督自身の根源にある恐怖の対象を教えてください。
「私の個人的な恐怖心についてですか?それは教えられませんね(笑)」
――残念です(笑)。では、これまでに怖かったホラー映画があったら教えていただけますか?
「できるだけ怖さを感じやすくするために、わざとみんなが寝静まった夜中に高性能のヘッドホンで観たりするのですが、そうして観たなかでも忘れられないのが、劇場版『呪怨』です。伽耶子が階段をゆっくり這い下りてくるシーンを観て思わず笑ってしまったのですが、私が笑うということは怖かったということです。あのシーンはとても印象に残っています」
――ありがとうございました。では最後にもっともお気に入りのホラー映画を教えてください。
「その日の気分によって変わってくるんですが…今日の気分で言うと『ジョーズ』と『エイリアン』ですね!」
取材・文/近藤亮太