押切蓮介と白石晃士監督が明かす、『サユリ』実写映画化の舞台裏「お化け相手でも、戦わないとおもしろくない!」
「映画版のオリジナル部分も、すばらしかったです!」(押切)
——映画版『サユリ』のビジュアルですが、少女のイメージが強い原作に対してヘビーな風貌ですね。
白石「少女は少女でありつつ、新しいホラーイメージキャラクターが欲しかった。加えてサユリが何故、引きこもりになってしまったのか?を映画版ではさぐるのですが、そこからあの姿に必然的に結びついたんです」
——引きこもりとなった理由もなかなかヘビーです。
白石「原作では描かれていない部分ですが、実写となると気になっちゃったので…」
押切「読者の想像にまかせてサユリの家庭事情はわざと描かなかったのですが、映画は映画でハッキリしたオリジナリティがあってすばらしいと思います。サユリが姿形を変えながら襲いかかってくる感じが良いんですよ!」
白石「なぜ違う姿が出てくるのかも、物語の謎めいたフックになっていますからね」
——住田の出番が増えていて、則雄がまっとうな青春をしていますね。とある“台詞”を含め、押切先生の描く男の子像とは少し違うように見えました。
押切「そうかな…そうだったとしたらそれは白石ワールドの影響ですね!」
——最初に拝見した時、あの“台詞”には正直なところちょっと引いてしまいまして(笑)。どこから沸いてきた台詞なのでしょうか?
白石「いや、あれは私が小学生の時に女の子から言われた言葉で」
——そうなんですか?
白石「少しませた女の子で、きっとからかわれていたんでしょうけど『白石クン、○○○○○○○○○○○○ってどういう意味?』て聞かれたんですよ。で、『いや、知らんけど?』みたいな(笑)。それがずっと頭に残っていて。その後、高校生になって生徒会で一緒だった女子が『最近金縛りにあって怖い!』と言ってきたので、『○○○○○○○○○○○○』と唱えたら?って教えたんです。そしたら金縛りに遭わなくなったと。それで『ああ効果があるんだな』と思って今回の作品で使ってみました」
——押切先生もどうです?次の金縛りになったら使ってみては。
押切「いや、僕は『金縛り、気持ちいいぃ!』で意地でも抗っていきますね。でも言葉は違えどスタンスは同じですよね。煽って煽って煽りまくるんです」
白石「実際この台詞自体に“生命の根源”がありますし、シリアスなシチュエーションにユーモアを持ち込む形になりますが、ユーモアこそ生命力だと思うんです。それが引くぐらいのものならなおさら霊的な存在に対して効果があるんじゃないかな。そういう意味では映画版『サユリ』は魔除けにもなると思いますよ」
「映画には泣ける部分が3箇所もあって、『俺、こういうの求めてたんだな』って」(押切)
——押切先生は残酷描写についてなにか思うところはありますか?
押切「残酷描写については相当耐性のあるほうです。『サユリ』については漫画との相違点もありますが、映画的な表現ですし、前半の絶望感からの後半に続くばあちゃんの奮起のギャップもしっかりしていて、気に入っています」
——ばあちゃん役の根岸さんのインパクトは原作以上に強烈でしたね。私は銭湯で則雄と並んでいる場面が好きなのですが。
白石「そのあとの、車の中で音楽を聴きながらノリノリになるシーンを最初に撮ったんです。あれは脚本に書いていないことを、根岸さんの解釈でやってくれたんです。テンションが高すぎてスタッフが『この後のシーン、どうなっちゃうのかな?』と心配するくらいでした(笑)」
——白石監督も押切先生も反Jホラーの姿勢が伺えますが、やはり互いにシンパシーを感じますか?
押切「作品を観ればそれは感じますね」
白石「やられるばかりで抵抗しないというのはねぇ…。私は海外ホラーを観て育ったので『負けるとしても、戦わないとおもしろくないじゃん!』と思うんです。拮抗する瞬間のカタルシスがほしいなと」
——白石監督はいくつか原作ものを作られていますが、『サユリ』はスムーズに進行できましたか?
白石「押切先生にもバックアップいただけましたし、さらに新しいアイディアもいただけて。原作モノは『ここだけは、変えないでほしい』と言われて、それが小さな一つの縛りのように見えて、実は脚本全体に影響することもあるのですが、今回そういうことはまったくなかったです。縛りは予算とレイティングくらいで、のびのびとやらせていただきました。『サユリ』の精神性が自分と共通していたので、原作モノという感覚はなかったです」
——押切先生的には映画版『サユリ』はどうです?
押切「いままでJホラーで笑ったこともないし、ましてや泣かされるなんてなかった。でも『サユリ』は、笑って泣いて、もう疲弊して終わるんですよ。しかも泣ける箇所が3箇所くらいあったんですよね。それで『あ、俺、こういうの求めてたんだよなあ』て。だから原作者というより、いち視聴者として純粋に楽しめました。(白石監督を見ながら)ほんとにありがとうございます」
白石「あ、いえ、こちらこそ(笑)」
取材・文/氏家譲寿(ナマニク)