山田尚子監督が『きみの色』に込めた“希望の光”とアニメーション監督としての“これから”

インタビュー

山田尚子監督が『きみの色』に込めた“希望の光”とアニメーション監督としての“これから”

『映画けいおん!』(11)や『映画 聲の形』(16)、『リズと青い鳥』(18)など、些細な心の揺れ動きまでを豊かな映像表現で描き、世界が注目するアニメーション監督の1人となった山田尚子。最新作となる完全オリジナル長編アニメーション映画『きみの色』(公開中)が、いよいよスクリーンに登場する。思春期を悩みながら、ひたむきに生きる少年少女を映しだした本作は、観客も主人公たちが目にしている色、聴いている音を共有して、胸にあたたかな光が灯るような1作として完成している。「自分自身に欠けているもの、憧れているものを描いている」という山田監督が、アニメーションに感じている無限の可能性や、“変わる勇気”を持って一歩踏み出していくキャラクターに込めた想い。そして「ずっと作品をつくり続けていきたい」という、いまの胸の内を語った。

「人や生きていくことを肯定していけるような作品を目指していました」

本作は、“音楽×青春”をテーマとした山田監督の最新作。人が“色”で見える高校生のトツ子(声:鈴川紗由)が、ある日同じ学校に通っていた少女・きみ(声:高石あかり)と、音楽好きの少年・ルイ(声:木戸大聖)と出会い、音楽を通して心を通わせていく姿を描く。

“音楽×青春”をテーマとした山田尚子監督の集大成とも言うべき映画『きみの色』
“音楽×青春”をテーマとした山田尚子監督の集大成とも言うべき映画『きみの色』[c]2024「きみの色」製作委員会

山田監督にとって『リズと青い鳥』以来、6年ぶりの長編映画。どのような意気込みで、完全オリジナル作品に臨んだのだろうか。「世の中、悩みを抱えている人も多いし、窮屈なこともたくさんある。そういったものが少しでも解放されるような映画になれば」と願いを込めた山田監督。主人公となるトツ子、きみ、ルイについて「とても優しくて、繊細で、それぞれ心のなかに悩みや秘密を持っている子たち」と分析しつつ、「それでいて、そういった悩みや状況を誰かのせいにしない人たちを描きたいなと。自分でなんとかしようと思ってしまっている人たちがお互いに支え合うような、人が人を大切に想う目線を肯定的に描きたいなと感じていました。ネガティブな部分も内包しながら、人や生きていくことを肯定していけるような作品を目指していました」とスタート地点を振り返る。

山田尚子監督は、脚本の吉田玲子に並々ならぬ信頼を寄せた
山田尚子監督は、脚本の吉田玲子に並々ならぬ信頼を寄せた撮影/黒羽政士

脚本を手掛けたのは、「けいおん!」シリーズ以降、山田監督と幾度もタッグを組んできた吉田玲子。山田監督は「とにかく、私自身も吉田さんの書く文章を読みたくて。吉田さんはちょっとした会話劇でも、こちらが想像もつかないハッとするような観点によって紐解いてくださる。吉田さんの書いたものを映像にする快楽は、とても大きなものです」とふわりと微笑みながら、並々ならぬ信頼を寄せる。

「この人はきれいな色をしている」「楽しい色をしている」「穏やかな色だ」といったように、人の色は見えるのに、自分の色はわからないトツ子。勝手に退学したことを、同居する祖母に打ち明けられないきみ。母親から将来を期待されながらも、隠れて音楽活動をしているルイ。山田監督の言葉通り、それぞれの悩みを持った3人が優しさを持ち寄りながら、距離を近づけていく。キャラクター、そして彼女たちが生きる世界も、ため息が出るほど美麗な色彩によって描かれているが、山田監督がイメージしたのは「印象派の絵画のような感じ」だと話す。


どのシーンも絵画のような美しさ!思春期の心が多彩な映像表現によって描かれる『きみの色』
どのシーンも絵画のような美しさ!思春期の心が多彩な映像表現によって描かれる『きみの色』[c]2024「きみの色」製作委員会

「印象派の絵画って、光を分解して描くことで、遠くから見るとある色に見えるようになっていて。そういった表現ができればいいなと思っていました」とまさに絵画のような美しさを目にできる。色を決めていくうえでテーマとなったのは「光として描くこと」で、「原色理論には、“色の三原色”と“光の三原色”というものがありますが、今回は“光の三原色”に焦点を当てて描いています」という。光の三原色とは、赤、緑、青の3色のこと。この3つを混ぜることで様々な色を作ることができるが、山田監督は「“光の三原色”に合わせて、どのキャラクターにどの色を当てはめようかといろいろと考えました。“光の三原色”って、真ん中が真っ白なんです。どんな色があっても、混ざり合うと白になる。彼女たちのように、とても無限だなという気がしました」と3人のキャラクターや関係性、果てしなく広がる未来までを色に乗せて表現している。

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