「けいおん!」から「平家物語」、『きみの色』へ!紡がれてきた監督、山田尚子の作家性をひも解く
何気ない会話ややり取りから伝わるナチュラルさ
『きみの色』は「音楽×青春」と銘打たれた作品でもあり、山田が最も得意とし、何度も作品を通して描いてきたテーマでもある。そのなかで息づくキャラクターたちの人物像は、様々な表現を通してスクリーンから伝えられる。例えば台詞回しが印象的だ。芝居がかった言葉ではなく、いままさにそこで言葉を口にしているような、ナチュラルな言葉選びが随所にみられる。トツ子の友人たちの何気ない会話や、男子と会話するのが苦手なトツ子をフォローするルイの言葉。
ナチュラルでありながら丁寧に選び抜かれた言葉と、俳優としてキャリアを重ねてきた鈴川、高石、木戸の3人の声が心地よくリンクする。トツ子たちがどんな人間で、いまどんな気持ちで語っているのかが、絵や動きに加えてその言葉からも伝わってくる。
3人のキャラクターを等しく主人公として扱うのは、非常に難しいものだ。誰かに描写が偏ることなく、3人の物語の結末と、歩いていく未来の姿を描かねばならない。その膨大な情報を、“絵”と“音”が渾然一体となって、観る人へしっかりと届けてくれる。キャラクターの微細な動きや台詞、音楽、そこに表現されたあらゆる要素が『きみの色』を形づくっていく。山田尚子の真骨頂ともいうべき「音楽×青春」がここにある。
文/藤堂真衣
※高石あかりの「高」は、「はしごだか」が正式表記
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