映画館でのライブ体験:BABYMETALの新たな挑戦『BABYMETAL LEGEND - 43 THE MOVIE』
ギミックなし、パフォーマンスで魅せる「ライブ体験」
まずなによりも驚かされたのは、本作があまりにもストレートな「ライブ作品」になっていたことだ。事前に発表されていた作品情報からもわかっていたことではあるのだが、それにしても本作の竹を割ったようなノンギミックさには、流石に度肝を抜かれた。曲間が多少間引かれている点以外は、ほぼ「ライブそのまんま」という印象で、「コンサートフィルム鑑賞」というよりは「映画館でライブを体験している」といった感覚だった。
そこにあるのは、25か国全98公演を駆け抜けてきたアーティストとバンドだけが持つ、充実の空気感と鉄壁の演奏。一流のスタッフが撮影・録音したそれらの記録を、生々しく再現するのは、数々の名作映画を上映してきた映画館のサウンドシステムだ。ライブ並みの大音響と、ライブ会場では味わえないほどクリアな音質、ダイナミックなカメラワークは、「映画館でのライブ体験」だからこそ可能となる圧倒的な体験を作り上げる。
ライブの臨場感を再現するのに最適な環境である映画館
BABYMETALのライブではおなじみとなっているドローン撮影による映像を筆頭に、これはまるでBABYMETALと「神バンド」の演奏をステージ上で間近に目撃しているような感覚だ。また、今回の試写ではBABYMETAL初となる5.1chサラウンド版を体験することができたのだが、あくまで演奏は前方ステージを中心とした組み立てで、リアスピーカーはライブ会場の臨場感の再現に使われているようだと感じられた。この実直なミキシングは「ライブの再現」として間違いなく大成功を収めている。本作はDolby Atmos版、そしてDolby Cinema版でも公開されており、ぜひともそちらも体験したいものだ。
いずれのバージョンで鑑賞にせよ、SU-METAL、MOAMETAL、MOMOMETALの3人と神バンドのパフォーマンスから伝わる情熱とエネルギー。オーディエンスがまるでの儀式のように一体となって盛り上がる瞬間の臨場感は、たとえあなたがBABYMETALファンでなかったとしても、その心を揺さぶるだろう。そして、ライブBD/DVDでは得られないこの衝撃は、映画館の大画面・大音響が、この2024年においても格別の環境であることをなにより雄弁に物語っているとも感じられた。音楽と映画、それぞれの文化が持つ魅力を再発見できる作品と言えるかもしれない。
トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』から続くコンサートフィルムの伝統を、テイラー・スウィフト、ビヨンセ、そしてBABYMETALは受け継ぎ、この現代に再提示する。それは従来型の劇映画ではないし、チケット値段を含む興行システムもやや特殊だ。しかし、BABYMETALファンは言わずもがな、映画ファンにこそぜひ一度この映画を観てほしい。きっと、BABYMETALの3人、そして映画と映画館の新たな魅力を発見できるはずだ。
文/照沼健太