「これはいまの私がやるべき」呉美保監督が9年ぶりの長編映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で描く“家族”の物語に迫る - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「これはいまの私がやるべき」呉美保監督が9年ぶりの長編映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で描く“家族”の物語に迫る

インタビュー

「これはいまの私がやるべき」呉美保監督が9年ぶりの長編映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で描く“家族”の物語に迫る

こだわり抜いたろう者やコーダの手話表現

今回、ろう者やコーダの手話表現には特にこだわりを持って取り組んだという。「“ろう者の役”を“ろう者の俳優”にやっていただくこと。また、ろう者の俳優さんにやっていただくセリフの一つ一つを一辺倒にせず、『それぞれの人物の言い方にちゃんと変換する』ように心掛けました。これまでにも手話を扱った作品はたくさん観させていただきましたが『殻を破れるか』が今回の挑戦だと思ったんです。生身のろう者の姿を、リアリティを持って描きたいと思った」。

「生身のろう者の姿を、リアリティを持って描きたいと思った」
「生身のろう者の姿を、リアリティを持って描きたいと思った」[c]五十嵐大/幻冬舎 [c]2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

“ろう”である大の両親、“コーダ”である大。立場が違うそれぞれの手話を、教科書通りに“翻訳”しない。劇中、大が母へ感情をぶつける場面では、耳のきこえない母に手話で思いを伝えながら、徐々に彼の口からも言葉がこぼれ出していく。「ろうの両親とは違って、大は聴者だけど手話もわかる。だけど、親とのコミュニケーションを拒絶してしまった経緯から、手話が未熟なんです。それで、演出のチームとも『(そういう経緯を踏まえると)彼はこういう手話を使うんじゃないか』と話し合いました。あのシーンは、最初は手話で話しているんだけど、だんだん感情が追いつかなくなって、口でのセリフになってしまう。手話もぐちゃぐちゃで、言っていることと手話がずれていくんです。そういった、コーダであるがゆえの表現をとことんリアルにやりたかった」。

大がコーダであるがゆえの表現をとことんリアルに描いたという
大がコーダであるがゆえの表現をとことんリアルに描いたという[c]五十嵐大/幻冬舎 [c]2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

「親への反発が原因で半端なままとなった手話」を演技で表現した吉沢は見事としか言いようがない。呉監督にとっても吉沢は、「いつか長編に復帰できるなら絶対にこの方と!」と心に決めていた俳優だったのだという。「監督の私は『リアルにやりたい』と言うだけですが、実際に演じる吉沢さんは大変だったと思います。本当にすごかった。私は吉沢さんの芝居の、あざとくないところがすごく好きなんです。今回はそういった表現をすごくしてくれた。五十嵐大役が吉沢さんであることに本当に感謝しています」と目じりを下げる。

次は吉沢亮と「アジアの国をまたにかけたラブストーリーを撮ってみたい」

本作で圧巻の演技をみせた吉沢亮
本作で圧巻の演技をみせた吉沢亮[c]五十嵐大/幻冬舎 [c]2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

続けて、撮影現場での吉沢については「本当にサラッとした人。作品の内容について、深い話をしてくるわけでもないし、私からなにか言うこともなかったけれど、ちゃんとこの作品でなにを表現したいかを感じ取るアンテナを持っている。美しい方なんですけど、キラキラしていない感じがあって。それでいて時々見せてくれる不意打ちのキラッに『ありがとね』って思うんです(笑)」と振り返る。

ビーター・チャン監督作『ラヴソング』のような映画を吉沢亮と撮りたい!
ビーター・チャン監督作『ラヴソング』のような映画を吉沢亮と撮りたい![c]五十嵐大/幻冬舎 [c]2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会


吉沢との再タッグがあれば撮ってみたいストーリーはないかと尋ねると「私は吉沢さんを、アジアでもっと知られてほしくて。だからアジアの国をまたにかけたラブストーリーを撮ってみたい。ビーター・チャン監督の映画『ラヴソング』(98)が好きなんですが、あんな珠玉の大人のラブストーリーを吉沢さんでやれたらいいですね。観たい人はいっぱいいると思いますよ」と楽しそうだ。

100歳まで映画を撮り続けたいと宣言した呉監督
100歳まで映画を撮り続けたいと宣言した呉監督撮影/山田健史

呉監督が引きだす吉沢の新たな魅力への期待が膨らんだところで、最後にこれからの映画作りで大切にしていきたい思いを聞いた。「ささやかだけど尊い感情を、これからも表現していきたいと思っています。例えば“家族”。この世の中にはたくさんの家族がいますし、いろんなカタチがあります。一つ一つの家族のカタチ、そこに流れるそれぞれの感情を自分なりに細かく描き、それが誰かのちょっとした一歩になったり、『人生って捨てたもんじゃないな』と生きることに希望を持ってもらえるような作品を100歳まで作り続けていきたいですね。あと53年あるので、焦らず行きます。めざせ、新藤兼人監督!(笑)」と満面の笑顔で語ってくれた。

取材・文/山田健史

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