鈴木おさむ&ゆりやんが明かす「極悪女王」みなぎる熱気の正体「Netflixはおもしろいものをつくることにストイック」

インタビュー

鈴木おさむ&ゆりやんが明かす「極悪女王」みなぎる熱気の正体「Netflixはおもしろいものをつくることにストイック」

企画・プロデュース・脚本を鈴木おさむ、総監督を白石和彌が務めたNetflix シリーズ「極悪女王」の世界独占配信が、いよいよスタートした。観る者も登場人物たちの青春劇や80年代の熱気あふれる女子プロレスブームに巻き込まれ、異様な興奮の湧き上がる1作として大きな話題を呼んでいる。そこで仕掛け人である鈴木と、一人の優しい少女が“最恐ヒール”ダンプ松本へと変貌していく姿を体当たりで演じ切ったゆりやんレトリィバァにインタビューを敢行。“伝説”とも言われる、長与千種VSダンプ松本による壮絶な試合「敗者髪切りデスマッチ」までを見事に再現した撮影裏話や、「よく『Netflixは金があっていいよな』と言われますが、違うんです」と鈴木が明かしたNetflixでものづくりをする特別さ。今年、新たな一歩を踏みだした2人に本シリーズがもたらしたものなど、たっぷりと語り合ってもらった。

「おそらくNetflix史上一番短い企画書を持って行った。すべてはそこから始まった」(鈴木)

ゆりやんレトリィバァが熱演!ダンプ松本の知られざる物語が明らかとなる
ゆりやんレトリィバァが熱演!ダンプ松本の知られざる物語が明らかとなる

本作は、80年代にカリスマ的人気で女子プロレス旋風を巻き起こしたダンプ松本の知られざる物語を描いたドラマ。ベビーフェイスとしての成功に憧れながらも、クビ寸前だったダンプ松本が悪役に転身。クラッシュ・ギャルズとして日本中のスターへ駆け上がる長与千種(唐田えりか)&ライオネス飛鳥(剛力彩芽)ら仲間たちとの友情や嫉妬、壮絶な戦いを繰り広げながら“日本史上最も有名なヒール”に成り上がっていく様を描く。

――ダンプ松本さんを主人公に、80年代の女子プロレスブームを描きたいと思われたきっかけや、企画の始動について教えてください。

鈴木「5年前に、企画書を書いてNetflixへ持って行きました。おそらくNetflix史上一番短い企画書なのではないかと思います。ダンプ松本さんと長与千種さんによる敗者髪切りデスマッチがこの企画のすべてとも言えるので、その写真を表紙に載せていたんですが、それをおもしろいと思ってくれたことで進めることができました。すべてはそこから始まりましたね。この時点から物語や構成は変わっていません。きっかけとしては、今田耕司さんが司会を務めている『すじがねファンです!』というテレビ番組に、ダンプさんと長与さんのファンに出ていただいたことがあって。そうしたら、まだファン同士がいがみ合っているんですね(笑)。長与さんのファンはあまりに悔し過ぎていまだに髪切りデスマッチを観られないと言っていて、その場で映像を流したら全員が号泣したんです。改めてあの時代のすごさ、そしてあれをテレビで放送していたという事実にも驚きました。そこで、当時の女子プロレスを取り巻く人々を描く作品がなにかできないかなと感じました」

「ダンプ松本を演じられる人が見つからなければ、この企画は成立しない」と語る鈴木おさむ
「ダンプ松本を演じられる人が見つからなければ、この企画は成立しない」と語る鈴木おさむ撮影/興梠真穂

――80年代という時代のおもしろさについて、どのように感じていますか?

鈴木「本作で描かれるのは、日本がバブル期に入ってきてバーッと熱くなってきた時代。ある意味、日本中が躁状態のようにもなっていた時代なのかなと。いまはネットのなかで攻撃したりしているけれど、当時はみんながダンプさんのことを本当に悪者だと思って、街中にいたら直接的に攻撃したりしていた。プロレスラーの生き様によって日本中が動いているようでもあり…ものすごい時代ですよね。1986年は、男女雇用機会均等法が施行された年なんです。この法律がまだなかった時に、ダンプ松本という当時日本の男子プロレス界にもいなかったような強烈な悪役が出てきた。これはすごくおもしろいですよね」


――松本香がダンプ松本というリングネームに改名したのが1984年なので、そういうことになりますね。以前から「アメリカで売れたい」と公言されているゆりやんさんは、本シリーズのオーディションの話が舞い込んだ時に「やりたい」と返事をされたとのこと。同時に不安やプレッシャーを感じることはありましたか。

【写真を見る】「極悪女王」鈴木おさむ&ゆりやんレトリィバァのキャッチ―な撮りおろしショット!
【写真を見る】「極悪女王」鈴木おさむ&ゆりやんレトリィバァのキャッチ―な撮りおろしショット!撮影/興梠真穂

ゆりやん「Netflixさんの作品で、企画が鈴木おさむさん、監督が白石和彌さんだと聞いて、絶対に売れるやん!ラッキー!と思ってオーディションを受けさせていただきました。ただダンプさんという実際にいらっしゃる方を演じるとなると、きちんと見た目から近づけないとダメですよね。そう考えた時に、自分にできるのだろうかという迷いはありました。いまとなっては、迷っていた自分はバカだったなと思うくらい。本当にすばらしい作品に出させていただいたなと思っています」

鈴木「ダンプ松本を演じられる人が見つからなければ、この企画は成立しないと思っていました。ゆりやんは、オーディションからすごかったんですよ。オーディションでは、監督がカメラで煽りながら、仮で僕が書いたセリフを読んでもらいました。ゆりやんっていつもすぐにボケるんで、質疑応答ではどこまで本当のことを言っているのかとみんなが戸惑っていて(笑)。『ちゃんと答えてもらっていい?』なんて笑ったりしていたんですが、芝居に入ったらものすごくて!父親と喧嘩をする場面をやってもらったのですが、感情があふれだすところでゆりやんは泣いたんです。ゆりやんのお芝居、すばらしいなと思いました。監督を含め、みんなでその日に『ゆりやんで行こう』という話になったのを覚えています」

ゆりやん「うれしいです。ありがとうございます。私も、おさむさんが審査員席で見てくれていたのをよく覚えています。包丁を持って『ぶっ殺してやるよ!』とお父さんに言うシーンで。その時は包丁じゃなくてマジックを持ってやったんですが、すごくグッとくるシーンでした。おさむさんは、お芝居が終わったあとに『実際にこういう家庭で育ったの?』と聞いてくださったんですよね」

鈴木「それくらいすごかった!迫真の演技でした」

プロレスラー松本香がダンプ松本へと覚醒していく
プロレスラー松本香がダンプ松本へと覚醒していく

――ゆりやんさんは、オーディションにどのような気持ちで臨んだのでしょうか。

ゆりやん「オーディションは、ものすごく緊張しました。以前、映画のオーディションを1回だけ受けたことがあって。ニコラス・ケイジさんが出られていた映画(『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』)なんですが、その時に爪痕を残そうとしすぎて、“審査員さんの前まで行って歯を見せる”という台本にはない動きをやって落ちたんです(笑)。今回は『そういうことをやってはいけないんだ』と学んだうえでオーディションに行けたのでよかったです。おさむさんとはこれまでにも何度かご一緒させていただいたことがあったので、おさむさんがいらっしゃる!うれしいと思いながら、緊張を少し解くことができました。しかも、おさむさんが『ゆりやんにも声をかけてみて』とオーディションに誘ってくださったと聞いて。ものすごく感謝しています」

鈴木「オーディションを受ける人には、前日に実際の髪切りデスマッチの映像が送られてきたんだよね。僕らはあの試合をオンタイムで観ているけれど、90年代生まれの人にあの映像が送られてきたらびっくりするよね!」

ゆりやん「私はそれまでこの映像を観たことがなかったので、めっちゃ怖かったです!でももしオーディションに合格したらこれをやらせてもらえるんだと思うと、ものすごくワクワクしてきました」

鈴木「僕は小学生のころ、どう考えても長与千種が勝つんだと思って観ていたんです。当時はダンプ松本が許せなかったけれど、大人になってみるとダンプ松本がすごい!と思って。あの状況だったら普通、ひよっちゃうよね!」

アメリカへと進出して、新たな夢へと突き進むゆりやん
アメリカへと進出して、新たな夢へと突き進むゆりやん撮影/興梠真穂
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