「草野監督だから温かいものになったし、バトンもつながって形になった」(黒木)
——お2人の“相身互い”エピソードを伺おうと思っていましたが、役者さんであれば、作品を通してというのがありますね。
黒木「SNSなどを見ていると、自分がまったく知らない人たちが自分のことを知っていることもあったりするし、逆に会ったこともない人たちのおすすめの映画を知ることができたりもします。面と向かってではない、知らないところで起こっている現象をこんな小さなもの(スマホをイメージする仕草で)で知れるんだ、みたいな感じが最近はすごくおもしろくて。いろいろな人がいろいろな場所で生きているんだなと思って楽しんでいます」
中村「実際に自分の作品が影響したという話を直接聞いた経験はあまりないので、実感したことはあまりないかな。でも、だからこそ、実はただすれ違っているだけの人とかでも、もしかしたら自分に影響しているのかも…なんて考えたりもしました。日常生活のいろいろなものにそういった現象がある。気づいていないけれど、自分が普段すごく頼りにしているものを作っている人がいる。日常にはそういうことがきっとあふれているだろうなって改めて思いました」
——本作は市井監督、佐々部監督、草野監督の3人のバトンが受け継がれて実現したもの。“つながる”というのは作品のテーマでもあります。テーマも含めて現場で草野監督とはどんなお話をしましたか?
中村「僕からは佐々部監督と『東京難民』でご一緒させてもらった時のお話もしましたし、この映画がどうやって草野監督にたどり着いたのかというお話も聞きました。本当にこの映画の作りそのものが、いろいろな人の想いがつながってできたことを、草野監督を通して知ることができました。演出に関しては、草野監督はあまり細かいことは言わないという印象があります」
黒木「細かい指示はあまりせず、気持ちの揺れ動き、演じている役者の気持ちを大事にしてくださる方という印象が非常にあります。あと、すごく楽しんで撮影をしている方(笑)。監督がモニターを見つめてニコニコしていると、『あ、いまのはよかったんだな』っていうのがわかるんです。そんな監督の姿を見てステキな方だと思ったし、そういう方だから撮れる映画だとも思いました。草野監督だから温かいものになったし、バトンもつながって形になった。とても大変なことだったと思うけれど、ご一緒できてよかったです」
——三重県桑名での撮影はいかがでしたか?梓の祖母の家や電車などもすごくかわいらしいものが多くて、観ていて和みました。
中村「やっぱり鉄道かな。赤い電車での撮影はすごく思い出深いです。会議室で事前にみんなでパイプ椅子を並べてシミュレーションしたのも楽しかったです」
黒木「会議室で、やったね(笑)」
中村「実際に動いている電車なので、撮影時間が限られているなかで、みんなで工夫しながらやったことがすごく思い出に残っています」
黒木「私は商店街が好きなので、思い出深いです。中條先生も『すごく懐かしい!』とおっしゃるぐらいの印象的な商店街を、スタッフさんが一生懸命作ってくださって。いまは閉じてしまっている場所ですが、すごくステキな雰囲気のシーンになりました。あの場所に行かないとできないものだと思いましたね。あとは…、桑名といえばやっぱりハマグリ!ということで食べました(笑)。桑名での撮影中は、差し入れもたくさんいただいて。安永餅(やすながもち)、おいしかったです」
中村「おまんじゅうを薄くのばしたような平べったいお餅。いつも置いてあったので、僕もよく食べました」
黒木「桑名の名物なので、ぜひ!」
取材・文/タナカシノブ