残酷で痛すぎる“死のゲーム”…ホラー史を変えた『ソウ』の衝撃を振り返る
観客の90%が称賛した最新作は、殺人鬼の視点で語られる1作目から続く物語
これまでのシリーズではゲームを仕掛けられた人間が主人公のポジションを担い、ジグソウはシリーズを通してフィクサー的、象徴的な役割を果たしていた。正直なところ毎度毎度、新たなデス・ゲームが映画の中心となる構造に対しては、シリーズファンからもマンネリ化しているとの声があがっていた。グルタートはこれを打破すべく、思い切った手に出る。それは殺人鬼のジグソウことジョン・クレイマー(トビン・ベル)を主人公に据え、その人物像を真正面から描くということだ。
『ソウX』はストーリーの時系列でいうと、1作目から続く物語。本作でのジョンは末期の脳腫瘍に冒されており、少しでも長く生きる道を模索している。そんなある日、画期的な治療を行なっている医療者の存在を知り、彼はメキシコに飛ぶのだが、これは大金を騙し取る詐欺だった。一度は完治したと思わされるも再び絶望の淵に叩き落されたジョンは、この医療関係者たちを探しだし、廃墟に閉じ込めて、助手の女性アマンダ(ショウニー・スミス)と共に“ゲーム”を仕掛けていく。
ジョン目線で“ゲーム”が描かれることによって、「命のありがたみを忘れるな」という彼の哲学がより強調されているのがミソ。裏を返せば、本作はシリーズで初めて、ジグソウ=ジョンというキャラクターのドラマを描いたとも言えるだろう。過去作では助手として冷徹に仕事をこなしてきたアマンダだが、本作では“ゲーム”の残酷さに弱音を吐き、ジョンに異論を唱える一面も。このようなドラマがしっかり描かれているからこそ、彼らが仕掛ける“ゲーム”が単に残酷なだけではなく、シリーズ中もっともエモーショナルなものに思えてくるのだ。
眼球吸引、手足の切断…新たな“ゲーム”に隠された意味とは?
そして、やはり最大の見どころは、趣向を凝らした“ゲーム”。眼球の吸引、首の切断、放射線などの装置に括りつけられたゲームプレーヤーたちは生き残るために、なにかを犠牲にしなければならない。その覚悟が、彼らにはあるのか?
目を背けたくなるほどバイオレントな描写もシリーズの醍醐味だし、心理戦のおもしろさも1作目をしっかり踏襲している。ジョンの天才的なアイデアに唸りつつ、そのスリルを体感できるのがうれしい。そして後半にはアッとおどろく急展開もある。ネタバレは避けたいので観ておどろいてほしいが、これが新味の一つであることも訴えておきたい。
シリーズファンでなくても楽しめることは、数字にも表れている。映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」では全米公開時、シリーズ最高の観客評価90%を叩きだしており、新たなファン層の獲得にも成功している。もはやマンネリとは言わせない。これまで以上に恐ろしく、なおかつエキサイティングな『ソウ』の新章を見逃すな!
文/相馬 学