根強いファンの多い「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの第3弾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』(公開中)。その制作の裏側に密着した『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ』が10月4日より公開され、5日には高橋明大監督と構成の赤坂浩亮による公開記念舞台挨拶が池袋シネマ・ロサにて行われた。
若き俊英、阪元裕吾監督のもとに、高石あかりと伊澤彩織演じる脱力系の殺し屋コンビ“ちさまひ”と、名アクション監督の園村健介が再集結した『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』には、最強の敵役、池松壮亮と先輩殺し屋役の前田敦子らが新たに参戦している。
この日のイベント冒頭で高橋監督は、「そもそも、メイキングドキュメンタリーが映画館で上映されて、これだけの規模で公開していただけるというのは稀有のことだと思うので、うれしいです」と挨拶。赤坂も、「こんなに大きいところで上映され、全国100館以上で公開して、ドキュメンタリー映画でそういうことってあるんだなというのがびっくりです」と驚きを隠せない様子だった。
『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の現場について高橋は、「どんどん現場が追い込まれていき、如実に緊張感が増していったし、出演者の方々の疲れも目に見えて溜まっていくのがわかりました。高石さんと伊澤さんはしょっちゅうメイキングのカメラに『おはようございます、3日目です』などと話しかけて下さっていたんですが、途中からまったくなくなりました。カメラに挨拶する余裕がないというのをヒシヒシと味わいながら撮影していました」と告白。
ドキュメンタリー映画の監督をするにあたって考えたことを聞かれた高橋は、「どうやって映画にすればいいのかなというのを一番考えました。PR映像を作ってもしょうがないので、映画館でかけるに足るもの、ドキュメンタリーとしておもしろいものを作るにはどうすればいいのかというのを考えながら撮っていました」と回答。
赤坂は、「高橋さんが現場に行かれていて、思い入れが映像に反映されているので、そういうのを客観的に見る“構成”としてかかわらせていただきました」と役割を説明。2人のコンセプトについて高橋は、「記録性にこだわる。時系列を極力いじらない。そして、生々しい素材のままを見せることを考えていました」と話した。
現場での苦労を聞かれた高橋は、「基本1人で撮らなくてはいけないというのが大変でした。ハンディカムなどで機動性を活かして取材の被写体との距離を近く記録を残していくという方法論もあると思うんですけれど、自分が現場で劇的だと思ったものを、印象に残る画としても残したいという欲望があるので、手持ちでフレキシブルで動けるように、広い画と標準的な画と両方撮れるズームレンズを手持ちカメラにつけて、もう1つ望遠レンズをそのまま三脚につけて、レンズを2つ使って本体を付け替えながら、ヒットアンドアウェイみたいなやり方でやっていきました」とこだわりを話した。
編集中の秘話について高橋は、「県庁のアクションとラストアクションは、それぞれ2日ずつかけて撮られていて、本作だと最後の闘いについては20数分たっぷり観ていただいているんですが、最初に見せ場をつないだだけのバージョンが5時間半くらいあったんですけれど、それは最後の1時間くらいラストバトルでした。あの密度が1時間続くと、観ている方も『これは本当にすごい!』と段々トランス状態になっていきました」と幻の荒編版について暴露。
編集のプロセスについては、「素材を一度全部見て、『これは見せ場になる』『これは見せ場になるかわからないけれどいい画だ』とマーキングすると、30時間あったんです」と話し、赤坂は、「5時間半のものを共有していただいて、どのシーンを使うかを整理することから始めて、どういう物語ができるんだろうと考え、ラストアクションのシーンが肝になってくるだろうというのはあったのですが、あまりに心体性が雄弁で、闘っているのは見ればわかるので、いかにそれを言葉なく伝えるにはどうしようかと表現方法を話し合っていきました」と編集の苦労を語った。
大谷主水が怪我をしたシーンで暗転する演出について高橋は、「怪我をされた瞬間は実は撮れていなかったんです。現場に戻ったら、大谷主水さんはもう座っていて、周りはただならぬ雰囲気になっていて、『しまった、どうしよう』と思って、RECボタンだけ押して、主水さんに『(撮影して)いいですか』とアイコンタクトを送ったんです。それに気づいて、『撮っていいですよ』と声をかけてくださったのがあのシーンなんです。あれは救われて、だからこそカメラを向けられたんです」と貴重な映像の裏側を激白。
「撮影中に怪我をされたので、本編の素材には怪我をされた瞬間が映っているんです。頼んで本編の画と音をもらったんですけれど、途中でつんのめってフレームアウトしているので、それを使うのが果たしていいのだろうかとか、倫理的にどうなのだろうかとか、別のカメラで画質が違うものがいきなり入ったらどうだろうかと2人で話し合いました。『撮ってください』と言われたというところから画が始まるのが、倫理的にいいのではないかとなりました」と葛藤を吐露した。
Q&Aセッションでは「本編を観たくらいの満足感でした。ドキュメンタリーではアクションパートがメインだったと思うけれど、バランス感はどう考えられたんですか?」という質問が。高橋は、「ドラマパートも『ベイビー』のシリーズとしての魅力だと思うのですが、ラストバトルの死闘っぷりだとかものすごいアクションを撮れたので、アクションを目を凝らして浴びるように観ていただき、体感できるような構成にしたいと思った時に、ドラマ部分を盛り込むと2時間半になってしまう。アクションと高石さんと伊澤さんの2人の物語にテーマを絞った方が力のあるものになると思って、こういう構成になりました」と答えた。
続いての質問者は『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』をまだ観ていないとのこと。客席にもドキュメンタリーを観てから本編を観るという観客の方もちらほら。高橋は、「結末がどうなるかとか、ここで裏側を観たものがつながれたらどうなるか、『ナイスデイズ』を観ると『こうなるんだ』と発見があると思う」と、どちらから先に観ても良いと語った。
次の質問者の「劇場公開のために95分にしたそうだけれど、将来的に円盤(DVD)などなんらかで、『ベビわる』のファンの方の手元に残る形でのお考えはありますか?」という質問に高橋は、「アクションをテーマの主体に絞っていったけれど、今回こういう構成にして、クランクアップの映像や高石さん伊澤さんの最後の挨拶なども泣く泣く切っているので、特典映像みたいな形で入れられればと個人的には思っています」と希望を語った。
最後に高橋は、「過酷な現場が映っていたと思うんですけれど、今回見せたかったのは、『過酷な現場でした』ということではなく、そういう過酷な現場でどういう精神性が立ち上がったのかということなので、立ち上がった美しい精神性をこれからももっと多くの方に観ていただきたいなと思っています。ぜひこの映画について言及していただいて、皆さんの勇姿がより多くの人に届けられるようにご協力ください」と、赤坂は、「『ベイビーわるきゅーれ』のファンの方たちが大半だと思うんですけれど、このドキュメンタリーが入口になってシリーズを観ていただけるような強度のあるドキュメンタリーができたと思います。何度でも観ていただければと思います」とメッセージを送った。
文/山崎伸子