「私がリーに与えたのは、音楽が彼女を抱擁するように包み込む感覚」
ホアキンと強烈なコンビネーションを見せたガガ。撮影にあたりどんなリハーサルをしたのだろうか?「実は一度もシーンのリハーサルはしませんでした。スタジオではすぐに撮影に入ったんです。すべてがライブ、ありのままでとても新鮮な体験でした」。ただしキャラクターの想いについては事前に密な打ち合わせを行ったという。「アーサーがリーに望んだこと、彼がそれを必要とした理由。そのことでリーがどのように生き生きと変化したのか。アーサーの心のなかにあるリーはどういったものか、たくさん話し合いました」。緻密なコミュニケーションがアーサーとリーの関係を支えていたという。
歌うシーンでもライブ感はキープしたという。「音楽シーンもその瞬間が大切でした。私のキャラクターになにが起きているか、なにを言おうとしているのかによって何通りかの歌い方をしたんです。アーティストとしてステージに立つ時、私は感情を大切にしています。でもリーは歌手ではありません。そんな彼女が強く声を出すとしたら、その時どんな感情を持っているのか自問しました。ある時はどうしたら彼が必要とする女性になれるかと思いつつ、またある時は自分を落ち着かせようとして歌ったり。私がリーに与えたのは、音楽が彼女を抱擁するように包み込む感覚だと思います」。そんなリーの歌い方は、アーティストとしてのレディー・ガガにも影響を与えるのかと訊ねると答えは「イエス」だった。「間違いなく影響すると思います。リーに限らず、これまで私が作ってきたキャラクターはすべて私の音楽に影響を与えてきました。なぜなら、それはすべて私を通して生まれた一つのものだからです」と彼女の創作活動にけるスタンスを明かした。
「私のパフォーマンスは、常に私自身のストーリーや経験と結びついています」
これまでも俳優として多くの作品に出演してきたガガ。本作のトッド・フィリップス監督がプロデューサーに名を連ねた『アリー/ スター誕生』(18)では、アカデミー賞やゴールデングローブ賞など多くの映画賞で主演女優賞にノミネートされた。歌手と同じく演じることにも彼女は自信を持って撮影に臨んだようだ。「小さいころから演技をしていましたし、なによりアルバム作りを通してキャラクターを創造し続けてきたからだと思います。私のパフォーマンスは、常に私自身のストーリーや経験と結びついています。そういったことは多くの点で、演技をすることと非常に似ていると思います」。
前作から引き続き二面性をキーワードにした本作。レディー・ガガがステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタから派生したもうひとつの人格だと考えると、二面性というテーマは彼女自身にもリンクするのだろうか。「それは私がこの映画に参加したかった理由のひとつでもあります。私が音楽のキャリアで作り上げたものの多くは、自分自身への反抗でした。そんな部分はリーというキャラクターにも反映されていると思います。そして、それはアーサーの物語にも重なります。ジョーカーはとてもパワフルなキャラクターですが、アーサーである日常においては、人々の脇に追いやられてしまう。そんなところに多くの人が共感したのではないでしょうか」。
高い演技力でスクリーンでも存在感を放ってきたレディー・ガガ。しかし本作のリーはそれだけではなく、彼女がアーティストとして培ってきた経験が重要だったとあらためて思い知らされた。表現者としてのレディー・ガガの高いスキルも『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の大きな魅力なのである。
取材・文/神武団四郎