日本公開が待ち遠しい!第29回釜山国際映画祭を沸かせた、韓国映画の最前線
台湾の青春映画をリメイク!ノ・ユンソ×ホン・ギョンのラブストーリー『聴説』
26歳のヨンジュンは、同い年のヨルムに一目惚れ。2人の間に淡い恋心が芽生えるが、彼女は聴覚障害のある妹で水泳選手のキョウルがオリンピックに出場することを自分の夢だと信じているため、一歩踏み出せないでいる。
追い求めるような夢がなく生きる青年ヨンジュンに「悪鬼」などで人気を博したホン・ギョン、ハンディキャップを持つ家族の夢を応援しながら自我との間で心が揺れ動く女性ヨルムを「私たちのブルース」「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」で一躍若手俳優の筆頭格に躍り出たノ・ユンソが演じ、青春から人生の岐路へと進む若者たちの恋愛と交流をみずみずしく描いている。
ホン・ギョンは青春映画へ出演について、「もし20代で自分がメロドラマをやるなら、それが映画であってほしいという願望がありました」と意気込みを述べた。
「上の世代の先輩たちの頃は、様々な手法で青春が描かれていたことに憧れと羨望を持っています。でも僕が生きている僕らの時代には、様々な題材がありますし、時代が異なるせいか映画で描かれることが少し減ったんじゃないかと思っていました。『聴説(原題:청설)』はそのなかで出会った物語。いまは全てのことに早さが求められていて、詳しく見る時間すらないような気がします。この物語では手話という言葉が交わされますが、ある人にとってはその言葉を使って育ったわけではないので、分からない別の言葉ですよね。それでも相手から目を離すことなく、全神経と全での心を尽くして理解しようとしなければならないからこそ、とても必要な物語なんじゃないかと思ったんです」。
映画では、コミュニケーション手段として手話が重要な要素となっている。聴覚障害の妹がいるヨルム役のノ・ユンソも、手話をするシーンがかなり多く、「全く新しい言語を学ぶので、すごく難しいと思いました」と明かした。続いて語った役作りのビハインドから、彼女の頭の回転の良さが垣間見える。
「最初は台本のセリフからすぐに覚え始めました。そのうち、繰り返される単語は覚えやすくなり、枝分かれして覚えた言語は関連づけて覚えるので、むしろ簡単に覚えられました。手話を学んでいくうちに、非言語的な表現である表情で意味が変わること、表情によって語尾が変わることなどが新しく見えてきて、学んだこともたくさんありました」。
ホン・ギョンも3か月間みっちり練習を行い、なめらかにできるようになったそうだ。
「なにかを媒介として使わなければならない言語を学ぶということに対する苦悩は、3人の俳優がある程度同じだったと思います。特に力を入れたのは、自分がどんな気持ちなのかということよりも、相手がなにを感じているのかというリアクションを取ることでした。相手に合わせて自分が反応することが身体で分かって、とても大きな学びになりました」。
イ・ドンフィが本人役で悪戦苦闘!「演じるとはなにか」を考えさせる『メソッド演技』
有名俳優イ・ドンフィは、コミカルなキャラクターで人気を博したものの、演技の幅を広げたいと苦心している。なかなかチャンスが巡って来ず焦りが募るなか、後輩の若手人気俳優から予想外のラブコールを受け、正統派時代劇に王様の役で出演することに。シリアスなキャラクターを演じるべく、メソッド演技法での役作りに意欲を燃やすイ・ドンフィだったが、相次ぐ脚本の変更で王様のキャラクターがコメディのようになっていく…。
今年のアクターズハウスに登場したソル・ギョングは、自分を追い込み役を作り込むメソッド演技を話題に挙げ、俳優の糧になる一方で周囲と自分を苦しめることにもなると明かしていたし、パク・ボヨンも、演技の幅をアップデートすることについて悩みを吐露していた。『メソッド演技(原題:메소드연기)』は、実力派俳優イ・ドンフィが本人として当たり役からの変身に悩む俳優に扮し、メソッド演技や演じることそのものについて語るアイロニカルな一本。大作から独立映画まで、BIFFにはあらゆる演技巧者やその卵たちが集結する。そんな彼らや彼女たちの葛藤を代弁する作品でもあった。
取材・文/荒井 南