絵描き・石黒亜矢子が『八犬伝』の世界観を描き下ろし!滝沢馬琴の姿に「自分もまだまだ頑張れそう」と感銘

インタビュー

絵描き・石黒亜矢子が『八犬伝』の世界観を描き下ろし!滝沢馬琴の姿に「自分もまだまだ頑張れそう」と感銘

「馬琴は北斎にずいぶん助けられたんじゃないかと思う」

映画の本筋として描かれるのは、「南総里見八犬伝」という物語を生みだそうと苦悩するクリエイターとしての馬琴と、馬琴の語る数々の物語を画として描き、創作に限らず私生活に関する悩みなども聞く北斎の友人としての姿。その交流の様子を、自身も絵描きとして活動し、絵本作家として物語を考える石黒は、クリエイターとしての馬琴に対して強い思い入れを持ちながら楽しんだという。

馬琴は、友人で画家の葛飾北斎に構想中の「南総里見八犬伝」を語る
馬琴は、友人で画家の葛飾北斎に構想中の「南総里見八犬伝」を語る[c]2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

「私は絵本作家なのでそんなに細かく入り組んだお話を考えることはないんですが、いまちょうど描くとなると長くなりそうなお話を考え始めていたところでこの映画を観たんです。だから、馬琴に対してはものすごく気持ちが入ってしまいましたね。私は担当してくれる編集さんをすごく頼りにしていて、相棒のように思いながら作品づくりをするんです。キャッチボールをするように相手が意見を投げてくれれば『なるほど』と思うし、それを踏まえたものを投げ返すというやり取りが仕事としてとても楽しい。でも、馬琴の場合はそういうふうに頼れる編集者がいたわけではなく、ひとりで考えて、ひとりで書いていたわけですよね。もちろん、空想する楽しさはあったかもしれないけど、いざ人前に出すお話を仕立て上げるとなるとそれだけじゃ済まない部分があるわけで。おもしろく見せないといけないし、説得力も必要で、さらに読者を引っ張っていく要素なども全部ひとりで考えなければならない。それは本当にすごいことで、それをやりきった馬琴には、尊敬しかないです。でも、やはり孤独な作業だから、誰かに1回読んでもらわないと本当におもしろいのかわからないと不安になったりすることも。これは正しいのか正しくないのか、“あり”なのか“なし”なのかを、信頼する人、ちゃんと褒めてくれる人に見せることが重要で、だからこそ馬琴にとって北斎の存在は大切だったんじゃないかなと。挿絵描きということで仕事はつながっているけど、職種がまったく違う。そういう立場の人から意見を聞けるのは貴重なので、馬琴は北斎にずいぶん助けられたんじゃないかと思いますね」。

「後味の悪い終わり方をする話を絶対に描きたくないという馬琴の想いもわかる」

そんな石黒が劇中で印象に残っているシーンとして語ったのは、「東海道四谷怪談」の作者である鶴屋南北(立川談春)と馬琴の顔合わせ。歌舞伎として舞台化された「東海道四谷怪談」を北斎と連れだって観に行った馬琴は、舞台の奈落(演出のための機構や出演者の通り道となる床下の通路)を通る最中に南北と出会い、それぞれの物語づくりに対する考え方の違いを語り合うことになる。「怪談」という人の悪行や闇にスポットを当てた物語を娯楽化する南北。人の持つ善性や希望などにスポットを当てた物語を描く馬琴。ある意味、求める方向性が異なるクリエイター同士の意見交換とも言えるシーンだが、石黒自身も作品の送り手として感情を大きく揺さぶられたそうだ。

歌舞伎狂言作者の鶴屋南北と馬琴が、“娯楽の在り方”を巡って意見が対立する
歌舞伎狂言作者の鶴屋南北と馬琴が、“娯楽の在り方”を巡って意見が対立する[c]2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

「あのシーンのやり取りはなかなか苛立ちを覚えましたね(笑)。私は物語づくりに対する考え方が馬琴寄りなんです。“勧善懲悪”が大好きで、『水戸黄門』もそういう要素が好きで観ていました。自分が描く絵本や児童書でも、嫌な終わり方はしないように心掛けていて。だから、馬琴の言う『心のよい者が、悪いことに合うような話には僕は絶対にしない』といったセリフは、すごく心に響きますね。そうした想いやこだわりは馬琴の描くストーリーの大元にあって、そこにすごく共感しますし、後味の悪い終わり方をする話を絶対に描きたくないという想いもわかります。もちろん、私は『四谷怪談』も好きなんですが、自分が書くならそうはしたくないということですね」。

「つらくて大変だけれども創作活動を続けるという馬琴の“実”の部分が心に染みた」

馬琴の執筆を⼿伝う息⼦の宗伯(磯村勇⽃)
馬琴の執筆を⼿伝う息⼦の宗伯(磯村勇⽃)[c]2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

そうしたクリエイター同士の想いをぶつけ合うようなシーンだけではなく、本作では馬琴の家族の物語も注目すべきポイントとなっている。馬琴の息子であり、父親からの期待を一身に背負って医者となり、馬琴の才能を大きく理解していた宗伯(磯村勇斗)。馬琴が婿入りした下駄屋の娘で、学がないゆえに馬琴の創作活動を理解することができずにきつくあたり続けた妻のお百(寺島しのぶ)。病弱な宗伯に嫁入りしてきたお路(黒木華)。その家族の物語にも石黒は強く惹きつけられた。


「役者さんがとにかく全員よかったです。馬琴を演じる役所広司さんはもちろん、奥さんを演じた寺島しのぶさんがすごくいい味を出されていて。旦那の創作活動は理解できず、息子も旦那の才能を認めてサポートしている姿に、自分はなにもできずに疎外感を感じていて、すごくきつくあたったり嫌味を言っているような感じだったんだろうけど、根本的には一番寂しかったんじゃないかなって。その心情を寺島さんがよく表していて。現実では息子が病気になってしまったりとか、いろいろと大変なことがあって、最後に、失明した馬琴が文字を書けなくなった時には、息子の嫁が力を貸してくれたり。つらくて大変だけれども、それでも創作活動は続けるという馬琴の“実”の部分が本当に心に染みました」。

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