高良健吾もびっくり!行定勲監督が明かした甲子園時代の松井秀喜との撮影秘話
松本潤と有村架純共演のラブストーリー『ナラタージュ』(10月7日公開)で話題の行定勲監督が、初めてのエッセイ集「きょうも映画作りはつづく」を刊行。それを記念したトークショー&サイン会が、9月22日に池袋コミュニティ・カレッジで開催。行定監督と、同じ熊本県出身の俳優・高良健吾が、トークショーで書籍について語り合った。
この本は、監督の出身地である地元・熊本のタウン誌「月刊タウン情報熊本」(通称タンクマ)に連載されたエッセイをまとめたもので、奇遇にも高良は高校生時代にその出版社でバイトをしたことがあるそうだ。高良はBeeTV『女たちは二度遊ぶ』、(10)、WOWOWのドラマ『平成猿蟹合戦図』(14)、映画『うつくしいひと』(16)と続編『うつくしいひと サバ?』(17)と、4本の映画に参加し、熊本地震の際には行定監督と共にボランティア活動も行った。
高良は、著書を読んだ感想について「まだ観てない映画を観ている感じがしました」と語る。「もう1回読み直したら涙が出ました。映画監督ってシャイな人が多いからあまり表に出ていく人は少ないけど、行定監督は言葉に出していく。熊本映画祭は実行委員長を務めているし。行定監督は種をすごく蒔いている。人と人との出会いや場所を作ってくれている。そこに深い愛を感じます」。
高良は、著書の中での印象深いエピソードとして、行定監督が助監督時代に、元メジャーリーガーの松井秀喜を撮ったという回を挙げた。それは甲子園のダイジェスト・ドキュメンタリー番組「熱闘甲子園」のディレクターの仕事で、松井の高校時代最後の甲子園を追いかけていた時のものだ。
行定監督は「試合の報告とは、別の特集を撮っていたんです。そしたらああいう事件になって騒然となった。あの時、松井は5打席連続敬遠されたんです。本当にあの時のことは忘れない」と当時を振り返った。
「それは僕が監督になるにあたっての1つの試練でした。松井の最後の顔を撮るにあたり、合宿での夕食にするか、六甲山へ行って思い出作りをする日にするか、どちらかを選べと言われて。すげえ悩んで、六甲山にしたんです。結局先生に言われ、夕食会にも伺ったんですが、その席で松井がいいこと言ったんです。『俺が1回もバットを振らなくて良かったのは、お前たちがいてくれたからだ。キャプテンとして申しわけない』と。その時、俺はこれを撮らなきゃいけなかった。まずいなと思いながらも、感極まって泣きました」。
結局、行定監督が撮った最後の松井の顔は、六甲山で撮った笑顔となった。「松井がすごい笑顔で手を振ってくれたんです。そしたら放映後、FAXがじゃんじゃん届いて。番組を観た視聴者から『あんなに大変だった松井くんがあんな笑顔をしてくれた』『清々しくて良かった』と。部長先生からも電話をもらって『本当に高校生らしいいい姿を収めてくれてありがとう』と言ってもらえたんです。その時、つくづく映画作りについて考えました。観客のことをないがしろにする映画作りもあるけど、やっぱり届ける人の顔も考えなきゃいけないんだなと」。
結局、行定監督は次の朝、松井のインタビューを改めて撮ることができたそうだ。「その時彼は、全く同じことを言ってくれたんです。その時、ああ、これって映画作りと似ているなあと。あの時、1本の映画のような選択を迫られてやったなあと。それが心の中に残ってます。すごい感慨深かったです」。
高良も「この本を読むと本当に映画作りは本当に大変なんだと思います。でも、僕は勇気をもらえました」と行定監督に感謝した。【取材・文/山崎伸子】