「“ぶっ殺してやる精神”は私のなかにもあります」
鞘師が劇中で演じたなつは、子を堕された恨みから男の家に火を放ち、罪人となる。そして砦を守る任務に就く“決死隊”のなかで唯一の女性として、一癖も二癖もある男たちをサポートしていく。「最初に白石監督とお話をした際に、作品の話や役柄についての説明よりも、私自身がどう生きてきたかについて訊かれました。キャスト本人のバックグラウンドを重視して配役されているとのことだったので、私自身もなつに自分の人生を投影することが必要だと感じながら、役づくりに臨みました」。
そう明かす鞘師の“バックグラウンド”には、もちろんモーニング娘。として活動した5年間が含まれている。当時のモーニング娘。のメンバー数は、鞘師も含めて9名から13名。“決死隊”と同じ11名だった時期もあり、このチームで活動していた経験は、少なからず本作に活きたようだ。特に鞘師が自身と役柄を重ねあわせたポイントは、「チームのなかでの役割を徐々に覚えていくこと」と「もう一度這い上がっていくんだという強い意志」の2点だったという。
「初めは一人でなんでもできなきゃいけないと思っていたのが、少しずつ『ここはほかのメンバーに任せられるから、歌とダンスに集中しよう』とか、『息抜きになるコメントをするメンバーがいるから、私は真面目なコメントをしよう』とか、結束が深くなっていくにつれて周りが見えてきて役割分担がわかってくるんです。なつの場合も同じで、最初は男たちを毛嫌いしているけれど、“生きるんだ”という強い思いが共通していることで一致団結して、自分のすべきこと見つける。なつの気持ちや周囲との関わり方の変化は、“描かれていない部分”が重要だと思っていたので、これまでの経験が役に立ちました」。
また「どこかに所属していると、みんなと支え合ってひとつのところに向かっていけるけれど、ふとした瞬間に孤独な気持ちになって目標がぐらついてしまうこともある。私も一度、自分で自分を支えきれなくなって心が折れてしまった経験があるんです」と明かす。「でも卒業して留学して、いまこうして自分の道を進んでいくと決めたいま、信じているものに対して信じるための自信を持ちたい。なつが強い意志を持って心の内を叫ぶことで、自分の背中を押してくれているような気持ちになったんです」。
鞘師の経験がなつという役柄に、なつという役柄が鞘師自身に。相互に良い影響を与える役柄とめぐり逢える貴重な経験は、今後の活動において大きな財産となることだろう。「すごくいいタイミングで、なつという役に出会えたと私自身も思っています。私が物語のなかでなつを“救ってあげる”と同時に、私も彼女に“救われている”。おかげでいままで頑張ってきた自分を、自信をもって肯定できるようになりました」。
ちなみに、予告映像で見られるように、なつは「ぶっ殺してやる!」という台詞など殺気立った強烈な言葉を口にするシーンが多い。「“ぶっ殺してやる精神”は私のなかにもありますよ」と笑顔で語る鞘師。「これまでは穏やかな、明るかったりちょっとゆるかったりする役柄を演じることが多かったので、なつという役にギャップを感じてもらえるとうれしいんですが、私自身はそんなにかけ離れている存在とは思っていないんです。あ、でもプライベートで『ぶっ殺してやる』は言ったことないですからね(笑)」。