閉鎖されたアパートを舞台に、増殖し、ビッグサイズに成長していく毒グモの恐怖を描く『スパイダー/増殖』
そんなクモ映画の最新作が『スパイダー/増殖』だ。パリ郊外の古びたアパートで暮らす爬虫類や昆虫を愛好するカレブ(テオ・クリスティーヌ)は、闇ルートで輸入された希少な毒グモを入手。ところが彼が目を離した隙にクモは箱を抜けだし、アパート中で産卵を繰り返しながらしだいに巨大化していった…。最初は一匹だった毒グモが瞬く間に増殖。アパートは巨大なクモの巣窟と化していく。どこに潜んでいるかわからないサスペンス、群れをなして襲い来るスリルがたっぷり味わえる。
本作に登場するのはイトグモ。イトグモ科のクモは捕食者から卵を守るため大型化するそうで、天敵の少ない砂漠から街に連れて来られたことで急速に巨大化。数センチから数十センチ、ついには車を威嚇するほどのビッグサイズになっていく。撮影には長い脚を持つアシダカグモ200匹が使用され、自在に動き回るカットや巨大化した姿はCGで描かれた。
監督は短編映画で活躍し、本作で長編デビューを飾ったセヴァスチャン・ヴァニセック。好きなジャンル映画に『エイリアン』(79)や『ジェヴォーダンの獣』(01)を挙げており、本作もショック演出よりも不気味な雰囲気重視の構成になっている。また、フランスで社会問題になっているバンリュー(移民が多く貧困率が高い都市郊外)を舞台に、底辺でくすぶる若者を描いた社会派作品としても見応えがある。
ワールド・プレミアが行われた第79回ヴェネチア国際映画祭をはじめ各国の映画祭に招待され、第56回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭では審査員賞を受賞した『スパイダー/増殖』。本作を目にしたサム・ライミは早速ヴァニセックにコンタクトを取り、「死霊のはらわた」シリーズのスピンオフ作品の監督&共同脚本に起用したという。スティーヴン・キングも絶賛した本作は、新人ならではの勢いと才気にあふれる意欲作なのである。
文/神武団四郎