開催中の第37回東京国際映画祭にて11月3日、映画『対外秘』(11月15日公開)のジャパンプレミアが行われ、上映前の舞台挨拶にチョ・ジヌン、キム・ムヨル、イ・ウォンテ監督が登場した。
『悪人伝』(19)のイ・ウォンテ監督が、『工作 黒金星と呼ばれた男』(18)のチョ・ジヌン、『KCIA 南山の部長たち』(20)のイ・ソンミン、『犯罪都市 PUNISHMENT』(公開中)のキム・ムヨルを迎えて描いた予測不能なサスペンスがついに日本でお披露目。ジャパンプレミアのチケットは、発売からわずか10分で即完売した注目作だ。
選挙が描かれる作品にちなみ“たすき”を身につけ登場。ウォンテ監督は「ちょっと苦しいです」と苦笑いするも、ジヌンとムヨルは「作中でも選挙活動をしていたので、慣れています」と余裕の笑顔。本作では1990年代の釜山が舞台となっているが「釜山はかなり発展したので、当時の状況を再現できる場所がほとんどなくて。全国をロケハンしてやっと海辺の街を見つけることができました」とロケ地探しの苦労を振り返ったウォンテ監督は、実際に釜山で撮影したのは全体の3割程度だったとし、「90年代を象徴する小道具を作ったり、音楽は当時有名だった大衆歌謡を使いました」と工夫を凝らして当時を再現したと明かした。
国会議員選挙への出馬を決意するヘウンを演じたジヌンは「私の演じた人物はゲーテのファウストのように、悪魔と取引するような部分がありました」と役を説明し、「そういう選択をせざるを得ない時には新たな自分を発見することになると思います。作中で描かれている状況を見ることで、自分自身を振り返ることができる映画です。私は決して悪い人ではないけれど(笑)、自分を振り返ろう、見つめてみようという気持ちで演じていました」と役作りの際に意識していたことを伝えた。今回、来日が叶わなかった権力者スンテ役を演じるソンミンについてジヌンは「これまで何度も共演しています。イ・ソンミンさんは最高です!演技力は言うまでもないし、後輩に対してもすごく優しい。とにかく最高です!」と大絶賛し、大きな拍手を浴びていた。
一攫千金をねらうピルド役のムヨルはウォンテ監督とは2度目のタッグ。前回も今回も体重に関するリクエストがあったとし、「さっき、ホテルで会った時に『そんなに痩せているの?』と訊かれたけれど『これが私の普通(の体重)です』と答えました」と思い出し笑い。本作では20キロ増量したことを明かしたムヨルは「俳優は作品ごとに新しい顔を見せなければいけません。新しい作品で新しい自分を探すようにしています」と演じることへの想いを語る。「ルックスの変化、コントロールは内面を変えることもできる」と体重の増減は特に苦ではないとニッコリしつつも「増量には3か月かかり、次の作品のために1か月以内に戻す必要がありました」とムヨルが苦労を明かすと、ジヌンは「私の場合は2週間あれば大丈夫」と太る様子をジェスチャーで再現し笑いを誘っていた。増量をリクエストした理由は「どうしてかは分からないけれど、とにかく増やしてほしいと言いました」と申し訳なさそうにしたウォンテ監督が「すみません」と日本語でお詫び。深々とお辞儀するウォンテ監督の姿に、会場もムヨルも大爆笑だった。
ムヨルは本作で方言にも挑戦しているが、ウォンテ監督をはじめ、ジヌン、ソンミンらキャストやスタッフがたくさん助けてくれたと感謝。撮影で印象的だったことを訊かれると「たくさんセリフを練習していくけれど、現場でセリフが変更されてしまって。そんなときはジヌンがすっと近づいてきて、言い方を教えてくれる」とジヌンの協力がありがたかったと笑みを浮かべる。ムヨルの方言は「上手だったよ」と優しく労うジヌンは、舞台挨拶中もムヨルのたすきがズレ落ちそうになるたびにそっと直すなど、細かい気配りを見せていた。
タイトルにちなみ自身の秘密を訊かれたジヌンは「あまり秘密はない」と前置きしつつ、「1本作品を撮ると振り返ることはありません。すぐにまた次の作品の準備をしなければいけないから」と告白。しかし本作については「心のなかに長く残っている作品です」とし、本作で政治家を演じたことで「本当に苦労されている人たちなんだと思いました。私は生まれ変わっても政治家には決してならないです(笑)。俳優がいいです」と宣言すると、会場は大きな拍手と歓声に包まれた。ムヨルは「とても私的なことですが…」と前置きし、「昨年、息子が産まれました。顔は公表していないけれど、妻に似ています」とニコニコ。会場からは「おめでとう!」の言葉が飛んでいた。
最後の挨拶でムヨルは「いい思い出がたくさんある日本で映画を公開していただいて、多くの皆さんに会えるのは本当にうれしい。記憶に残る映画になってくれたらうれしいです」と呼びかけ、ジヌンは「日本の観客の皆さんの前で挨拶するのは初めて。本当に意義深いことだと思っています。映画を作ったのは私たち。これからは皆さんのもの。思い切り楽しんで!」と会場を見渡し、観客へ拍手を送る。最後にウォンテ監督が「『対外秘』は重みがあってシリアス。とても楽しめる作品になると期待しています!」とアピールし、ジャパンプレミアの舞台挨拶を締めくくった。
取材・文/タナカシノブ