大正の息吹を残しながら、令和へと文化をつなぐ福島県の映画館「本宮映画劇場」110周年の歩みと未来
「本宮映画劇場」でしか味わえない、数々のアイテム
先述の通り、本宮映画劇場といえば「カーボン式映写機」。実際に映写機を見せていただくと、傷一つなく、新品と見紛うほどピカピカの状態だった。不定期上映になった現在も田村氏が常に手入れを行い、いつでも稼働できるようになっているんだとか。カーボン式映写機の映写技師は年々減っていき、福島県内では田村氏一人のみになった。
「映写中、だんだんカーボンの先端同士が離れていくから、上映中は付きっきり。大変なんですよ。(映写機が)2台あるし、フィルムの巻き返しもしないといけないから、技師も3人くらいいてほしい。でも、もう技術持っててもメシが食えないですから。そういう時代になっちゃったね」。
ほかに田村氏のイチオシは、110年の歴史を持つ“建物”そのものだと語る。クラシカルな外観に、「本宮映画劇場」の文字、さらに主力であった松竹のロゴ、本宮映画劇場のキャッチコピーとなっている「場末のシネマパラダイス」の文字が刻まれている。ここを訪れる人のなかには、映画館としてではなく“歴史ある建物”として興味を持ち、遠方からカメラを携え足を運ぶ人もいるそうだ。本宮映画劇場は、建物の陰に隠れた少し奥まった場所にあるため、細い路地を抜けることで全貌を見ることができる。路地の奥でどっしりと佇む劇場は、建物マニアにはたまらない場所とも言えるだろう。
そしてもう一つ、優子氏は「木の椅子はもういまどき珍しい」と客席を推す。現在は「椅子がどれだけ快適であるか」も劇場を選ぶポイントで、当然のように布が張られたふわっとした座り心地の椅子がほとんどだが、本宮映画劇場では当時の木製の椅子がそのまま残されている。さらに、床は“三和土(たたき)”になっており、あらゆるところから、現在ではそうそう味わえないノスタルジーが漂っている。
ほかにも、映写室にはフィルムや未使用のカーボン、宣伝の主力であったという新聞の折込チラシ、テレビや映画の撮影で訪れた人々と館主の記念写真など、貴重なアイテムが数え切れないほど並んでいた。
住所:福島県本宮市本宮中條9
アクセス:JR東北本線「本宮駅」から徒歩3分
見学料:500円