大正の息吹を残しながら、令和へと文化をつなぐ福島県の映画館「本宮映画劇場」110周年の歩みと未来
“映画館文化”の維持と、地元への貢献
3代目館主の優子氏は現在、東京のミニシアターで働くかたわら、今回のように本宮映画劇場の不定期営業を行っている。本宮映画劇場には、昨年一部スクリーンを閉館した池袋HUMAXシネマズの椅子が10席引っ越ししているが、これも優子氏が買い取ったのだという。
「SNSで販売のお知らせが出ていて、『10席引き取りたい』と希望し、池袋から本宮まで運びました。こういうふうに、消えてゆく映画館の捨てられちゃうものもありますが、うちで預かれるものは預かって、使っていきたいなと思っています。失いたくないですからね。常にそういった情報はチェックしています」。池袋HUMAXシネマズの椅子だけでなく、昨年事業を終了した東京現像所の試写室の椅子も一部譲り受けたといい、「フランスのキネット社の椅子で、これは残したいと思いました」とも教えてくれた。
現在の映画館は映画の情報一式をデータで各劇場に送る「DCP上映」が一般的で、これに対応するには専用の機材が必要になる。そのため、資金が十分でないなどの理由から閉館に追い込まれる劇場も増えつつある。そんななかで、本宮映画劇場は不定期上映だからこそ現状維持し、各劇場のアイテムを譲り受けながら、もとの古きよき雰囲気もそのままに、建物を残していきたいと考えているのだそう。
「今回のように時々イベントをやって、日々見学も来てもらって、無理しないで維持をしながら、この古いままの空気感を見てもらって、本宮の活性化につながったらいいなと思います。映画ってすごく不思議で、男女とか年齢とか関係なく、映画を通して知り合いになりやすいところがいいところだなと思っていて。県外の人や本宮の人がふらりと立ち寄れる気軽なコミュニティの場であればうれしいです。本宮映画劇場は法人ではなく個人の所有物としてやっていて自由なので、たとえばここで歌ってみたいとか、踊ってみたいとか、そういうことを言ってくれたら協力していきたいし、決してホールとして設備は完璧じゃないけれど、『ここでよかったら』という気持ちで協力したいですね」。
本宮映画劇場は、JR東北本線「本宮駅」から歩いてほどない場所にあり、本宮駅のメインストリート沿いにあるため、ちょっとした散策などもできるだろう。駅から少し歩いた先には、NHK連続テレビ小説「エール」で山崎育三郎が演じた実在の歌手、伊藤久男の生家である「ハイツ」というドイツパン屋があり、ここも人気スポットの一つ。伊藤もかつては本宮映画劇場に訪れ、リサイタルを行っている。
地元が誇る名優や歌手をはじめ、大正や昭和のスターも数多く訪れた「本宮映画劇場」。閉館時から時を止め、大正の息吹を残した数少ない劇場に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか?
文/佐藤来海
住所:福島県本宮市本宮中條9
アクセス:JR東北本線「本宮駅」から徒歩3分
見学料:500円