ネタバレ全開トークショー開催!韓国映画や文化に詳しいゲストが語る、『破墓/パミョ』をさらにおもしろく観る秘訣とは?
『破墓/パミョ』(公開中)。2人の巫堂(ムーダン)と風水師、葬儀師が掘り返した墓に隠された恐ろしい秘密を描くサスペンススリラー『破墓/パミョ』。昨年、韓国で1,200万人を動員し、日本でも着実にファンを増やしている同作のヒットを記念したトークイベントが、11月9日に角川シネマ有楽町で開催された。登壇者は映画研究者の崔盛旭氏と、ライター・編集者の岡本敦史氏。本作のパンフレットにも寄稿した“通”な2人によるネタバレ全開のトークでは、韓国の文化やチャン・ジェヒョン監督の演出など映画をより深く楽しめる数多くの知識が披露された。
※以下の記事には『破墓/パミョ』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
『破墓/パミョ』は韓国人の心に刺さっているトラウマを取り除く“お祓い”のような映画
「観終わった今、けっこう呆然とされてる方もいらっしゃるかもしれないですね」と切り出す岡本氏に続き、崔氏は「シンプルに面白かったです。そこからもう一歩踏み込むと、やはり、日韓の歴史が顔を覗かせていて、(韓国側の)歴史的なトラウマがどれくらい大きいのかを感じましたし、きっとこの映画は、韓国人の心に刺さっているトラウマを取り除く“お祓い”のような映画ではないか」と解説した。
『破墓/パミョ』には、日本統治時代に朝鮮半島へ国の覇気を奪うために打ち込まれたという都市伝説「鉄杭事件」が重要なキーとして登場する。社会現象となった当時は捏造や詐欺事件に発展することもあり、さらに今なお日本軍の鉄杭伝説を信じている人々も一部いるという。崔氏は「今となってはばかばかしい騒ぎでしたが、それもまた鉄杭を通して韓国のトラウマを蘇らせる目的があったのではないでしょうか」と語った。
これに対し岡本氏は、この映画で描かれる最大の鉄杭が、甲冑をつけた武士という存在であるのが興味深いとした。「存在そのものが鉄ですよね。なぜ縦に埋められているのかも分からない特級呪物みたいなものが、日本からわざわざ持ってこられて埋められているというフィクションを作り上げた発想がすごいですね。ある意味、現実とフィクションを混同するなというメッセージもあるように思います」と見解を示す。そして、「日本にも『帝都物語』(88)という映画があって、それを思い出しますね。東京の至るところに地脈が走っていて、日本橋の麒麟像など、それを鎮める守り神があちこちにある。鉄杭とは逆ですけれど」と、風水学にまつわる日本映画についてのエピソードを披露した。
登場人物たちの名前の意味とは?小ネタが分かればさらに面白い『破墓/パミョ』の世界
本作の主要登場人物たちの名前は、かつて日本統治下の大韓民国独立軍にちなんでいて、崔氏によれば、今度ヒョンビン主演で映画になる安重根と並ぶNo.2の格がある英雄だ。さらに、ファリムたちが宿泊する寺を建てた僧侶のウォンボンという名前も、1920年に爆弾投擲事件を発生させたキム・ウォンボンに由来しているのではと推察した。これまでも『暗殺』(15)ではチョ・スンウが、『密偵』(16)ではイ・ビョンホンがそのキャラクターをモデルに演じたほど、歴史的にはかなり存在感の強い人物だ。
また、キツネの陰陽師として登場するムラヤマジュンジという人物についても、崔は村山智順という風水師がモデルになっているのではないかと語る。
「彼の『朝鮮の風水』という書籍は、韓国の風水師の中ではもう教科書みたいになっているんですよ。彼は朝鮮総督府時代と植民地時代、まだ文献として残っていない風水をきちんと記録した人。韓国風水界にとってはとてもありがたい存在です。ただ映画の中では逆で、最も邪悪な人間ですよね。なのでもしかしたらまだ何か朝鮮半島に仕掛けているんじゃないですかね…もし続編があるなら、何か別の罪が明かされるんじゃないでしょうか」。
“入る時は恐怖心、出る時は愛国心”…韓国の観客による考察合戦と様々な意見
崔は、『哭声/コクソン』(16)で初めて日本人が“よそ者”という恐ろしい存在として映画に登場したのを皮切りに、日本がホラー的素材になってきている部分があると分析する。
「一般の韓国の認識の中には、確かに怖さや不安、ネガティブなイメージがあると思います。それをうまくホラーにする。よそ者として、日本的なものがホラーになる可能性を広げた作品なのではないかと思います」。
これに対し、アジアのホラー作品に精通した岡本氏は「そういう面もあるのかなと思いましたし、ちょっと誇らしいと言っていいのかなとも。小山力也さん、完全に怖かったですよね」と、悪役である“ヤバいもの”の声を演じた声優の小山力也を称えた。
一方、崔氏は「先ほどの名前も含めて様々な仕掛けがあるので、知った後でもう一度観に行ったというリピーターもたくさんいたみたいです。一般客が書き込む韓国のレビューサイトには、それぞれ色々な心境でこの映画を観ていることが分かります。この映画を愛国心を煽るような映画だと指摘する人もいます。“観客が入る時は恐怖心、出る時は愛国心”なんて言われたりもしましたね。映画そのものが面白いというシンプルな理由もありますが、その他の様々な要素が混ざって1200万人という動員に繋がったんではないでしょうか」と韓国で大ヒットした要因についての見解も明かした。
取材・文/荒井 南