闇バイト、BL、ディープフェイク…大森時生が放つ「フィクショナル」、酒井善三監督が明かした黒沢清への憧憬

インタビュー

闇バイト、BL、ディープフェイク…大森時生が放つ「フィクショナル」、酒井善三監督が明かした黒沢清への憧憬

「僕らの世代で、黒沢さんから影響を受けていない人はいない」

多くの名だたる映画人を輩出してきた映画美学校を経て、2021年に発表した中編『カウンセラー』が「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」の国内コンペティション部門SKIPシティアワードに輝いた酒井監督。今回『フィクショナル』の劇場公開にあわせ、『カウンセラー』のリバイバル上映も決定している。

黒沢清監督が『Chime』を作るうえで影響を受けたと公言している『カウンセラー』
黒沢清監督が『Chime』を作るうえで影響を受けたと公言している『カウンセラー』[c]Drunken Bird

心理カウンセラーの主人公の倉田のもとに、予約なしで相談に訪れた一人の女性。「妖怪が見えるんです」という彼女が語る暗い物語に翻弄され、次第に不安の渦へと堕ちていくさまを描いた『カウンセラー』は、『Cloud クラウド』(公開中)などで知られる黒沢清監督が「近年もっとも不気味な映画といってもいいだろう」と熱烈な賛辞を送った一本。さらに黒沢監督は、今年8月に公開された中編『Chime』(公開中)を手掛けるにあたり、『カウンセラー』から影響を受けたことも明かしている。

「黒沢さんが僕の作品から影響を受けるなんて…そんなことが生きていて本当に起こりうるのかと思うくらい、本当に畏れ多い話です」と恐縮しっぱなしの酒井監督。「僕らの世代の演出家で、黒沢さんから影響を受けていない人はいないと思います」と語るように、酒井監督自身も以前から黒沢監督の作品群から多大な影響を受けてきたと明かす。

「実は『フィクショナル』には『Cloud クラウド』に参加していたスタッフさんが何人もいて、完成したあとになって『似てるよね』と指摘されて途方に暮れていました…。もっと早く言ってくれよと。でも、知らず知らずのうちに寄っていってしまうというのは、それだけ僕が黒沢さんから影響を受けているということなんだと思います」。

黒沢監督が1990年代に手掛けたVシネマの「勝手にしやがれ!!」シリーズをはじめ、「観られる作品は全部鑑賞しています」と豪語する酒井監督は、あらためて黒沢監督への強い憧れを語る。「娯楽映画、つまり様々なジャンル映画として、独特な作家性を求められるような立場になってからも、アートな方向、個性への評価に止まることをせずに、常に自分のなかでのおもしろさを実験していく、エンタテイナーであり続ける姿勢を尊敬しています」。

そして「黒沢さんはそれでも強烈な作家性を出せる人ですが、僕には個性らしい個性がない。だからこそ、誰が観てもおもしろいと思えるもの、娯楽性の強い作品に積極的に取り組んでいきたいと考えています」と、映像作家としてのさらなる飛躍を誓った。

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」でSKIPシティアワードを受賞した、酒井監督の代表作をスクリーンで目撃するチャンス!
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」でSKIPシティアワードを受賞した、酒井監督の代表作をスクリーンで目撃するチャンス![c]Drunken Bird


取材・文/久保田和馬

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