アルコ&ピースが上田慎一郎監督作『アングリースクワッド』に最大級の賛辞!「平子をダマすって、相当なもんですよ?」
「平子をダマすって、相当なもんですよ?」(平子)
──ストーリー運びが絶妙だからこそ、物語にもストレートに没入していけるんですよね。ちなみに、お2人が感情移入したキャラクターをそれぞれ挙げるとすると?
平子「やっぱり…内野聖陽さんのスゴさですよね。大げさじゃなくて、本当に主人公の熊沢、内野さんが演じられているとは思えなくて。『内野さんって、こんなに情けなくないよな、頼りなくないよな』って半信半疑で観てしまう。『もしかして長年舞台で活躍してきた、実力のある知る人ぞ知る俳優さんが抜擢されたのかな?』と思わされるくらいの“演者の勝利”感。平子をダマすって、相当なもんですよ?」
酒井「いやいや、相当でしょ。上田慎一郎監督だもん」
平子「そうそう、上田&内野タッグでね、平子をもダマすっていう。まずは、その“演者力”にやられましたね。でも、なんの疑いもなく気持ちよくダマされるくらい引き込まれました」
──聞くところによると、上田監督と内野さんは脚本を練っている段階で原作の「元カレは天才詐欺師〜38師機動隊〜」のマ・ドンソクさんを想起させるからと、主人公の名前を熊沢から一度は“コジマ”に変えたそうで…。
酒井「そう、それスゴくないですか?なんですか、コジマという平凡な名前に変えることで、マ・ドンソクのイメージを払拭させてから脚本を練り直すって?『そんなことまでする作り手と俳優さんがいるんだ!?』って驚きました、僕は」
平子「熊っていうワードが強いんですよね。『コジマに変えて作り直したらマ・ドンソクのイメージから離れられたから、やっぱり熊沢に戻そう』って言っちゃう内野さんもスゴい」
酒井「スゴいよね!俺もそういうのやってみようかな。一度、“コジマのニュアンス”入れてみようかな?」
平子「その作業を内野さんと上田監督でやっちゃうのがスゴいよね」
酒井「語り継がれそうなエピソードだよね」
平子「なんだろうな…王(貞治)さんと長嶋(茂雄)さんにしかわからないような領域の会話っていうのがあって、我々にはうかがい知れない感覚、感性っていうところの世界観の話ですよ、こうなると。もう別次元の話」
酒井「しかも内野さん自ら、『(熊沢役に合う)いい眼鏡を見つけた』って監督に電話してくるっていうのもスゴいよね」
平子「その眼鏡のチョイスも絶妙なラインでね。普通だったらイメージを伝えて、あとは衣装さんに任せるっていう感じだと思うんですけど、別現場の合間なのか、お休みの日なのかわからないけど、熊沢という役のことを気に掛けているっていう。もっと言えば、内野さんほどのキャリアや実力のある俳優さんなら、演技で公務員っぽい堅さだったり、熊沢の情けなさを見せられると思うんですよ。でも、さっきもお話したように内面的な表現に逃げないんですよね。眼鏡という現物を使ってしっかり見せられる強さ、と言いますか。それをやられちゃったら、ほかの人が太刀打ちできない。僕だったらドヤ顔で言いますもん、『(眼鏡に象徴されるニュアンスは、)演技で見せるわ』って。『いい眼鏡を見つけたよ』って、うれしそうに監督に電話してくる人間力、引いては演者力がすさまじいなと思いましたね」
酒井「いや、ホントに太刀打ちできないよね。で、自分が感情移入したのは、皆川猿時さんが演じられた、熊沢の親友(=警察官の八木晋平)ですね。たぶん僕もあの人みたいな感じになると思います。『脱税王に詐欺を仕掛けるなんてやめとけよ、無理だよ』なんて言っているんだけど、なんだか関わっちゃうっていう。でも、皆川さんの役もいいキャラクターですよね。親近感がわくというか」
平子「皆川さんが演じることによって、キャラクター設定を解きほぐしてくれるところがあるよね。そんなに登場シーンが多いわけではないんだけど、説得力がある。前半で人間性をしっかり見せているからこそ後半の行動に整合性を持たせていて、しかも皆川さんの演技でいたって自然に見えるのがスゴいなと思いました」