映画狂の芸人みなみかわ、「クリストファー・ノーランの『インセプション』」を思わせる『雨の中の慾情』での映像体験に感嘆
「“違和感”と“気持ちよさ”が交互に押し寄せてくるような感覚があった」
――たしかに。今回の『雨の中の慾情』は、スリラー、ホラー、コメディ、アクション、ラブストーリーと、あらゆるジャンルを横断する作品で、実験映像のようなオープニングや冒頭の雨宿りのシーンからしてかなりのインパクトがある作品ですが、ご覧になった感想は?
「『岬の兄妹』や『さがす』とも、あまりにもテイストが違うので、『本当に同じ監督の映画なんかな?』と驚きました。それこそ冒頭のシーンには、『えっ?これ、エロコメなの!?』って、いきなり心をつかまれて(笑)。シュールで苦手なテイストの作品かと思いきや、意外にもすごく観やすい映画でよかった。普通、こういう系の映画だと、『なにコレ?どういうこと?』って、いちいち引っかかって気が削がれてしまいがちだけど、この映画の場合は、“違和感”と“気持ちよさ”が交互に押し寄せてくるような感覚があって、とある映画的な仕掛けを挟んでも、ずっと作品の世界観に入り込んだままで最後まで行けたんです。『いやいや、それやとなんでもアリになりますやん!』って思わず言いたくなるところをギリギリ回避して、理路整然とした物語に落とし込んでいる感じが、僕はすごく気持ちよかったんですよね」
――“違和感”と“気持ちよさ”が交互に押し寄せてきた要因は、どこにあると思われますか?
「洋画なら『そういう文化なんかな』って多少目をつぶれるところも、邦画の場合は劇中で交わされる言葉も同じ言語だから、いわゆるパーソナルスペースみたいなものが近すぎたりすると、どうしても気になっちゃって。それこそこの映画も冒頭からツッコみどころ満載なはずなのに、奇想天外なストーリーであっても編集と構成の巧みさでグッと入り込めた。誰もが共感できるであろう、ものすごく細かい“あるある”が、先の読めない展開の随所にちりばめられていて、絶妙なタイミングで突いてくる。これもひとえに片山監督の腕が確かだからなのか。それとも、実力派キャストのすばらしい演技力の賜物か。きっと、監督はもちろんのこと、すべてのキャスト、スタッフを含めての合わせ技なんでしょうね。観終わったあと、めちゃくちゃすごい映像アトラクションを体験した直後のような感覚になりました」
「『成田凌が義男をやっている』画力の強さもこの映画の魅力のひとつ」
――成田凌さん、森田剛さん、中村映里子さんらの佇まいと肉体が物語る作品でもありますが、場面ごとにまったく異なる表情を見せる俳優陣の芝居を目の当たりにして、どんなことを感じましたか?
「成田さんはもともと芝居の幅が広い役者さんですが、今回も相当難しい役どころやったと思うんです。割と物憂げな感じで決して明るい芝居ではないけれど、かといって陰鬱にもなりすぎない。陰惨なシーンでも成田さんだからこそ救いがあって、ギリギリ観ていられるというか。『成田凌が義男をやっている』画力の強さもこの映画の魅力のひとつなんだと思います。森田剛さんのお芝居も、アイドル出身であることを微塵も感じさせない胡散臭さがあって。『城みたいな家に住んでんだよ』っていう前フリも、いわゆるちょっとしたフリオチのボケのレベルではないほどに壮大で。あの映像が流れた瞬間、思わず『ラスベガスじゃん!』ってめちゃくちゃ笑いました(笑)。中村さんもまさしく銀幕のスターみたいな顔立ちと肢体で。男みんなからモテまくる、福子さんという役柄に本当にピッタリな女性なんですよね」
「“泣き”や“感動”の要素が、複雑に何層にも分かれている」
――YouTubeやポッドキャスト番組などで、映画紹介をされる機会も多いみなみかわさんが、この作品をひと言で表すとしたら、どんなふうに表現されますか?
「そうだなぁ…。『日本のクリストファー・ノーラン』みたいな表現をしたら怒られるでしょうけど、ひと言で言うと『超高級な新喜劇』なのかもしれない(笑)。いわゆる“泣き”の要素や“感動”パートが複雑で、何層にも分かれているのに、『そんなチープな笑いもあるの?』みたいなところもあって、観ている最中ずっと感情的に忙しいんです。それこそ中盤にちょっと舞台っぽいシーンもあったりするんですけど、普通なら舞台芸術が映像に急に出てくると冷めるのに、この作品の世界観には、あの舞台独特のテンションの上がり方や盛り上がり方がすごくマッチしていて。戦争シーンやホラー的なちょっと怖めの描写もあったりするんやけど、あのシーンこそがこの映画の肝でもあって。あれがなかったらこの映画は成立しない。別軸の話なのかと思っていたら、こっちが本筋やったんかって度肝を抜かれました」