映画狂の芸人みなみかわ、「クリストファー・ノーランの『インセプション』」を思わせる『雨の中の慾情』での映像体験に感嘆
「『ドクター・スリープ』『インセプション』などの要素が詰まっている」
――片山監督は、本作との関連作品として“自分の中の彼女と向き合う”という点では、『エターナル・サンシャイン』を、戦争のモチーフが入っているという点では、『ジェイコブス・ラダー』を挙げられています。作品をご覧になっていて、みなみかわさんが思い浮かべた映画はなにかありますか?
「子どもたちが出てくるシーンは、『シャイニング』の続編にあたる『ドクター・スリープ』を思い出しました。あの映画のなかにも、子どもにストレスをかけて、エキスみたいなものを抽出するシーンがあったんですよ。芸人とか作り手からしたら“禁じ手”みたいなところもあると思うんですけど、この映画ではそれをあえて逆手にとって、壮大な仕掛けにしている。『あの仕掛けもこうやって使うと、こんなにおもろくなるんや!』って。シーンのつなぎ方なんかもすごく繊細で、ちゃんと観る人のことを考えてくれているなという安心感がある。『ドクター・スリープ』以外にも『インセプション』や『鬼が来た!』のような要素がギッシリ詰まっているんですが、にもかかわらず、観た人が自由に解釈できる余地がある。たとえ監督が意図していたことと違ったとしても、『あなたがそう受け取るんやったら、それが正解なんじゃないですか?』と言ってくれそうな、作り手の包容力をすごく感じます」
「一番すごいと思ったのは、ギリギリまでわかりやすさを追求しているところ」
――観た人の数だけ答えがある作品だと思いますが、劇中、みなみかわさんが特に印象に残ったシーンは、具体的にどんな場面でしたか?
「個人的には、足立智充さん演じる須山という男が、白いランニング姿で子どもとすき焼きを食べるシーンに、妙~な気持ち悪さを覚えましたね。息子役の子が棒読みで『すき焼き、すき焼き』と話す姿があまりにもシュールで、思わず自分の脳内で『なんやねん、これ!』とツッコみながらも、映像の引力があまりにも強すぎて良くも悪くも魅了されてしまったんです。なんだか、白昼夢のような感覚でものすごくせつなかった。正直なんということもないシーンなんですが、多分、僕は一生忘れないと思います。もしかしたら、子どものころに親父と過ごした時間を思い出したのかもしれない…」
「戦争シーンもシンプルに迫力があったし、村人にボコボコにされるシーンなんかも、不思議といまの時代とリンクするところもあって。『日本映画まだまだ負けてないよ!』感がありました。シリアスな場面のなかに『えっ?』と目を疑うようなシーンがいきなり飛び込んできたりするので、感情が揺さぶられまくります。『シュールさのなかにベタがある』のもこの作品ならではなんですが、僕がこの映画で一番すごいと思ったのは、ギリギリまでわかりやすさを追求している感じがするところ。監督や製作陣が目いっぱい頭をひねって、試行錯誤してわかりやすくしているのが感じられるんですよ。“わかりやすさを妥協してない”といいますか。いわゆる、“もう一段階わかりやすくする作業”って、きっとめちゃくちゃ大変やと思うんです。作り手側の交じりっけなしの想いが純粋ピュアなままで抽出されていて、周りにいる変な大人たちの匂いがしない(笑)」
「2時間超えなのに体感速度はめちゃくちゃ速い、まさに映像スペクタクル」
――(笑)。では最後に、みなみかわさんの思うオススメの鑑賞方法がありましたら、ぜひアドバイスをお願いします。
「ここまで散々話しておいてなんなんですが(笑)、この映画は、先入観なしで観た方が、絶対楽しめると思います。僕もできることならもう1回、鑑賞記憶を失くしたうえで、映画館の大きなスクリーンで観たいです。2時間超えなのに体感速度としてはめちゃくちゃ速い。観客を飽きさせずに、最後までいっきに走り抜ける。まさに映像スペクタクルやと思いますね!」
――素敵なお話をありがとうございました!
「そういえば僕、実は片山監督と1回お会いしたことがあるんですよ。『サンクチュアリ -聖域』の脚本を手掛けた金沢知樹さんに昔からお世話になっていて、仕事が全然ないころに、脚本の仕事をたまにもらっていて。WEB UOMOの企画で制作した滝藤賢一さん主演の短編動画『メゾンタキトウ』もちょっとだけお手伝いしたんですが、その打ち合わせで片山さんにご挨拶した記憶があるんです。きっと、片山さんは覚えていらっしゃらないと思いますけどね」
――なんと、片山監督とそんなご縁があったとは!監督とみなみかわさんの本格的なコラボが実現する日も近いのでは…!?
「いやいや…。もちろんそんな日が来たらうれしいですけど。もしかしたら妻が、『みなみかわをぜひキャスティングしてください』って、片山監督にDM送るかもしれないですね(笑)」
取材・文/渡邊玲子