赤楚衛二が語る、映画『六嘘』の“表と裏”「本当の大学生みたいに青春してました」【『六人の嘘つきな大学生』公開記念インタビュー連載】
「積み上げてきたものをあそこで全部ぶつけた感じでしたね」
――続いて告発によって“裏の顔”が暴かれる本作に因んだ質問です。6名の中から、どなたかのあまり知られていない魅力や意外な素顔を告発してください。
「山下さんが辛い食べ物が好きだから、彼女に触発されて、みんなが辛い物を食べに行っていたんですけど、その辛さが異常なんですよ(笑)。普通では食べられないレベルのものもデリバリーしてもらっていたし、『昨日、〇辛食べた』みたいな話をしているから、スゴいなと思って。僕も辛いのは好きなんですけど、年齢もありますし、胃腸のことも考えて、そこは無理をしないようにしています(笑)」
――そうなんですね!ほかにも印象に残っている人はいます?
「倉くんはお芝居のパターンがいつもいっぱいあって。“こういうのもあります” “こんなのもあります”という引き出しが多いし、相手の芝居のこともすごく分析しているから、傍から見ていてもお芝居が好きなのがすごく伝わってくるんですよね。それが彼の魅力にもつながっていると思います。なのに、『倉ってお芝居好きだよね?』って聞くと、『いや、好きじゃないっす』って言うから(笑)、あの斜に構えた感じはなんなんだろう?なぜそこまで否定するんだろう?とも思うんだけど、彼のそんな天邪鬼なところが可愛いんです。これはたぶん、あまり表に出ていないエピソードじゃないかな(笑)」
――映画の話に戻りますが、8年後のシーンでは、波多野は本来、いないはずですが…。
「死んでますからね」
――でも、特殊な出演の仕方をされています。あの撮影はいかがでした?
「難しかったですね。あの8年後の波多野も就活の呪縛から解かれていない状態で、8年前の最終ディスカッションのところから精神状態は地続きなんじゃないかと僕は思っていたんです。でも、いわゆる霊として演じたらいいのか、波多野の“想い”を視覚化したものとして登場すればいいのか、そこはすごく悩みました。それで監督に相談させていただいたら、どちらかと言うと、彼の“想い”が5人の意識を通して過去とパーンとつながるようなイメージということだったので、“なるほどな”と理解して。最後の最後はもう『みんな大好きだよ』っていう波多野の告白なので、後半の方に撮らせてもらいましたし、積み上げてきたものをあそこで全部ぶつけた感じでしたね」
――波多野が登場しない8年後のシーンの前半の撮影の時は、あとの5人から「現場に来るな!」って言われたそうですね(笑)。
「そうなんですよ。『行きたい』って言ったら、『来なくていい。私たちだけで楽しいから』って。まあ、『来てよ』って言われたら、それはそれでちょっと心配になるので、それぐらいの関係になれたのはうれしかったけれど、『来なくていい』は酷いですよね(笑)」
「『観ないほうがいい』って言う人もいるかもしれないけれど、僕は逆に観てほしい」
――ちなみに、赤楚さんがもし就職活動をすることになったら、どのように自己PRをしますか?
「『楽しい人でーす』とか言って、僕は笑いに持っていきますね。これまでのオーディションでも、掴みで笑いをとる方向に持っていくことが多くて。『赤楚衛二です。赤楚を英語で書くとAKASOですけど、逆から読むとOSAKA。大阪出身です!』って言った時に笑ってくれたら“勝った!”と思っていたし、会話にユーモアや親父ギャグをぶっ込みながら“この人と一緒に仕事をしたいな”って思わせるようにしたいんです。自分のPRポイントで攻めていくというより、“この人といたら楽しそうだな”って思ってもらうことを前面に押し出したいんですよ」
――エントリーシートの長所や特技を書く欄にはなんと書きますか?
「長所は“柔軟”です。本当に柔軟で、決断するのも早い。ただ、それは短所でもあって、優しさなのか弱さなのかわからないけれど、人から強く言われると、『じゃあ、わかりました』って簡単に折れちゃうところもあるから、そこが悩ましいところです」
――そのあたりは波多野とすごく重なりますね。
「重なりますね。本当に、まんまじゃないですか」
――そこまで言い切っちゃいます?
「はい。『フィールドワークサークル部に入ってます。あっ、ただの散歩サークルです』というセリフもありましたけど、ああいうこと実際に言いそうだし(笑)、違うのは学力の差ぐらいで、あとはまんまです。これまで演じてきた役の中でも、一番自分に近いかもしれないです」
――では、ああいう局面になったら、波多野のように嶌さんを救うような行動をとると思います?
「いや、そこは違いますね。僕も裏切られたら敵とみなすし、“好き”という感情があっただけに、“愛”から“憎”にガッと切り替わって、みんなに彼女の本性をバラします。そこが波多野との大きな違いかもしれない。彼は優し過ぎますよ」
――なるほど。そこが違いですね。先ほどのオーディションの話とも重なりますが、これまでの人生でもこれは絶対に勝ち取りたいと思うようことがあったと思います、そうした時に、験担ぎだったり、自分の中でルーティンのように決めているようなことはありますか?
「ないですね。ただ、準備はします。例えば勝ち取りたいヤンキーの役があったら、あえて爽やかな格好でオーディションに行って、“これは無理だろう?”って思わせておいてから弾ける演技をしたり。そういうギャップが大事だと思っているし、そこは演出まで考えて臨みます。でも、前日にカツカレーを食べるとか、そういうことはしてこなかったですね。受験の時に母親が縁起物のお菓子を買ってきてくれて、“優しいな”って思ったことはあるけど、それぐらいです」
――でも、そうやって笑いをとりながら勝ち取ってきているのはスゴいです。
「落ち続けた結果ですね。その役に自分が合わなかったということもあるけれど、なぜ落ちたのか、ここで緊張したのがダメだったのかな?どうして緊張したんだろう?といったことをひとつひとつ掘り下げて分析し、言語化していくということを繰り返しやっていたんです。そしたら、お笑いに走るほうになっちゃいました(笑)」
――本作を実際にこれから就活する人たちにオススメしますか?内容が内容なので、就活生は観ないほうかいいと思いますか?
「『観ないほうがいい』って言う人もいるかもしれないけれど、僕は逆に観てほしいですね。極限の状況に陥ると、人って異常な心理状態になるじゃないですか。劇中には『それが本性だ』って決めつけるシーンもあるんですけど、追い詰められると偏った見方になったり、視野が狭くなるということは、今回の映画で伝えたいですね。なので、ピンチになった時こそ、目をクッと開いて、あまり気負わずに…と言いたいけれど、気負うのが就活。大人になった僕らは、あの時気持ちをもっと大きく持っておけばよかったって思えるけれど、それを言ったところで、就活生にはやっぱり刺さらない。気づける人は気づけると思うけれど、人生の大きな選択ですから、言えるのは『我武者羅に生きてください』ということぐらいですね」
取材・文/イソガイマサト