『映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」』天海祐希&上白石萌音が見つめ直したダークな感情との向き合い方「もう悩まない。でも、若いうちはいっぱい悩んだほうがいい」
「ある意味、紅子さんはとても人を信じている気がするんです」(天海)
――中田監督も、紅子さんを天海さんにお願いしたのは、「子どもたちをはじめ、願いを叶えてくれる駄菓子を買うお客さまたちの行く末をしっかり見届ける“人生のレフェリー”役に、凛として芯のある天海さんこそがピッタリだと思ったからだ」とおっしゃっていました。
天海「紅子さんって、お客さまが必要な時に、必要な駄菓子を選んで、それを売る。でも、そのあと、お客さま本人がどんな道を選択するかということには、紅子さんは一切干渉しない。最終的に、望みどおりにならなかったとしても、『あらあらまた“不幸虫”ができちゃったわね~。あのお客さまはこっちに行かなかったか…』って、あくまでもサラッと言うだけで、よどみちゃんみたいに『なんでそうならないんだよ!』って引きずらない。ある意味、紅子さんは、とても人を信じている気がするんです。ちゃんとそれだけの経験を積んできたからこそ、執着せずにいられるんじゃないかな。そこがよどみちゃんとの差なんだと思うんです」
上白石「よどみは、まだ人に対して“ウェットでピュアな期待”を持っているんですよね」
天海「そうそう。紅子さんは達観してる。だからこそ、人の生き様を見るのが好きなんだと思う。もちろん、紅子さんのなかにも『このチャンスをものにしてほしい』という気持ちはあるんでしょうけど、あくまで本人の選択を尊重して、人間の強さも弱さもすべてひっくるめて、俯瞰で見ている感じがするな。決して相手に押し付けたりせず、自分の意思で選ばせて、最終的にどちらに転んだとしても、『これが、あなたが選んだ、あなたの人生だから…』って。きっと、紅子さんみたいな人のことを“優しい人”って言うんだろうなと思いながら、私は演じていた気がしますね」
――なるほど。紅子さんがどういう人生を歩んできたかについても、想像が膨らみますね。
上白石「よどみはたたりめ堂のカウンターを挟んでお客さんに自分のほうから仕掛けていって、思いどおりに相手を動かすことに、喜びを感じているんです。でもお店に紅子さんが来た時、そこで初めてよどみがちょっと“食らう”んですよ。私のなかでもあのシーンの撮影を通して、初めて掴めたよどみの気持ちもありました。紅子さんを演じる天海さんの視線一つ、言葉の渡し方一つで、台本上だけでは想像もつかなかったような流れが、そこで一気に巻き起こったりするんです。あのシーンは、私にとって本当に今後の宝だなと思います」
天海「よどみちゃんは自分の持っている負のものをお客さんにバンバンぶつけて、『それを倍にして返してこい!』ってけしかけるタイプの子なんだけど、もしかすると紅子さんもそういう時期があって、いまの紅子さんの境地に至っているのかもしれないと思ったりもする。もちろんすべてではないにせよ、よどみちゃんの性格についてもちゃんとわかった上で、紅子さんは、わざと吹っかけたり、押したり引いたりしているんだと思うんです」
上白石「よどみの挑発に乗ってこない唯一の相手が紅子さんで。それが悔しいんですよね」
天海「そうそう! 逆に紅子さんのほうがよどみちゃんに、来いよ!って挑発し返すんだよね。人間相手なら、恐怖を与えて、負の感情をさらに増幅させることができたのに、紅子さんがお店に来た途端、よどみちゃんの前にドーンって大きな壁が立ちはだかったんだと思うな」