イザベル・ユペールと京都、奈良、直島を散策。観ているだけで癒される『不思議の国のシドニ』スポット紹介
フランスを代表する女優、イザベル・ユペール主演の最新作『不思議の国のシドニ』(公開中)は、日本を舞台にした物語。ドキュメンタリー映画からキャリアをスタートさせ、長編フィクションでは『ベルヴィル・トーキョー』(11)、『静かなふたり』(17)を手掛けたフランス人女性監督エリーズ・ジラールが、かつて自身が初めて日本を訪れた時の体験や感情を基に、一人の作家の喪失と再生を描く、美しいラブストーリーを撮り上げた。
フランス人作家のシドニ(ユペール)は、デビュー作が日本で再販されることになり、躊躇しつつも、日本の出版社からの招聘に応じる。来日中の彼女の案内役は、寡黙な編集者、溝口健三(伊原剛志)。桜の季節に京都、奈良、直島など、溝口と共に様々な場所を旅するシドニの前に、亡くなった夫アントワーヌ(アウグスト・ディール)の幽霊が現れる――。
訪れた場所の景色に癒され、そこで語り合う溝口とも少しずつ心を通わせていくシドニ。各スポットが映しだされた透明感ある映像には、ジラール監督が抱いている日本映画や日本文化への愛が随所にちりばめられている。日本の伝統文化と現代的な文化の共存に惹かれる、というジラール監督がスクリーンに収めた魅惑のスポットの数々を紹介していきたい。
国際交流の舞台にも使用されてきた葵殿(ウェスティン都ホテル京都)
シドニの記者会見場として登場するのが、ウェスティン都ホテル京都の中にあり、これまで国賓、公賓の晩餐会にも使用されてきた、国際交流の舞台にふさわしい雅な宴会場「葵殿」。壁には京都三大祭りを描いたステンドグラスがあしらわれ、窓の外には東山の自然や京都市文化財登録の美しい回遊式庭園が広がる。記者からの質問の一つ一つに真摯に答えるシドニの話に、離れた席から静かに耳を傾けている溝口の姿が印象的だ。
桜や青もみじ、季節の草花による彩りも美しい真如堂/涅槃の庭
取材のあと、溝口の案内でシドニが訪れる洛東の隠れ寺「真如堂」は、永観2年(984年)に戒算上人が開創した比叡山延暦寺を本山とする天台宗の寺。正式には鈴聲山真正極楽寺(れいしょうざん しんしょうごくらくじ)といい、正真正銘の極楽の霊地という意味を込めて名付けられ、その本堂を表す真如堂が通称として定着した。清澄な空気が漂う広い境内は紅葉の名所として親しまれているが、桜や青もみじ、季節の草花による彩りも美しく、一年を通じて散策を楽しめる。
本堂の仏間から先は有料拝観エリア。シドニが眺める枯山水庭園「涅槃の庭」は、名造園家、曽根三郎が1988年に作庭したもの。生け垣の向こうには、比叡山や大文字山を含む東山三十六峰が望める。庭は入滅(お釈迦様の最期)をモチーフに、北を枕にして横たわるお釈迦様と、それを取り囲む仏弟子や生類を石組みで表し、ガンジス川の流れを白砂で描きだしている。シドニのように縁側に座り、自分自身と向き合いながら心ゆくまで鑑賞したい場所だ。
また、涅槃の庭に面した3つの部屋にある墨画の襖絵のうち、スクリーンに映るのは中央の間の鶴の絵。明治期に活躍した画家、前川文嶺・孝嶺親子によって描かれた襖絵で、シドニは「あの鳥、フランスにもいるわ」と溝口に伝える。