イザベル・ユペールと京都、奈良、直島を散策。観ているだけで癒される『不思議の国のシドニ』スポット紹介
美術館とホテルが一体となったベネッセハウスミュージアム
数日間を共に過ごし、距離が縮まったシドニと溝口の関係をいっそう深める役割を果たす特別な場所が、瀬戸内国際芸術祭の会場として知られる直島。2人は四国汽船のフェリーに乗って、シドニが「カプリ島にいるみたい」と言った直島へ渡る。フェリーが直島の玄関口、宮浦港に近づくと、真っ先に目に入る屋外展示作品である草間彌生の「赤かぼちゃ」も映しだされる。かぼちゃの中は空洞になっており、作品の内部に入って鑑賞することも可能だ。
直島滞在中、シドニと溝口が宿泊するベネッセハウスミュージアムは、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルが一体となった施設。絵画、彫刻、写真、インスタレーションなど、ジャンルを超えて、各国のアーティストたちの作品が展示されている。安藤忠雄の設計による建物は、本作において、日本文化の現代的な一面を表現する役割も担う。
ホテルの部屋に各自チェックインしたシドニと溝口が落ち合って、一緒に鑑賞するのは、杉本博司が世界各地の海の水平線を同じ構図で撮影した「海景」シリーズ。展示場所であるテラスの壁は、本物の瀬戸内海を挟み込むように立ち、鑑賞者がある地点に立つと、瀬戸内海の水平線と作品の水平線が重なるという仕掛けがある。
自然の景観を楽しみながら、屋外作品周辺や浜辺を自由に散策できることも直島の魅力で、劇中でも、シドニと溝口がアートを鑑賞したあと、いつしか手をつなぎ、浜辺に向かう美しいシーンがある。帰りのフェリーで「もう直島が恋しいわ」とシドニがつぶやくほど、どこか世俗から離れたマジカルな場所として登場する直島は、今後さらに人気を集めそうな予感。
このほか、奈良ホテルやホテルオークラ神戸など、シドニが宿泊する各ホテルの部屋も、シドニとアントワーヌが2人きりで会話をする重要なシーンの舞台として登場。最愛の夫を亡くした喪失感に打ちのめされて以来、凍りついてしまったシドニの心を、日本の静かな風景が優しく溶かしていく物語は、観ているこちらも不思議と癒されるような感覚になる。この映画を通して、シドニと一緒に旅をしながら、日本の魅力を再発見してほしい。
文/石塚圭子