イザベル・ユペールと京都、奈良、直島を散策。観ているだけで癒される『不思議の国のシドニ』スポット紹介
“奈良の大仏さま”で親しまれる東大寺
滞在2日目。この日の取材を終えたあと、シドニと溝口はタクシーで奈良を訪れる。鹿が草を食む奈良公園を歩き、2人が向かったのは東大寺の金堂・大仏殿。溝口が手を合わせる“奈良の大仏さま”の正式名称は盧舎那(るしゃな)仏座像といい、智慧と慈悲の光明を遍く照らしだす仏、という意味がある。盧舎那仏が乗る蓮華座は「蓮華蔵世界」と呼ばれる広大な世界を表し、この世のすべてのものは互いに密接につながっているという教えを体現している。
広大な東山を借景にした青龍庭園が一望できる料庭八千代(南禅寺八千代)
シドニと溝口が昼食をとるシーンで登場するのは、京都の旅館、南禅寺八千代の庭園レストラン「料庭八千代」。食事だけの利用も可能で、広大な東山を借景にした青龍庭園が一望できる空間のなか、季節感あふれる器に盛りつけられた京料理を楽しめるのが魅力。シドニはここで、溝口に初めて涙を見せ、亡き夫アントワーヌの話をする。
谷崎潤一郎の墓がある法然院
シドニがファンという裏設定があったのか、「陰翳礼讃」などフランスでも人気の高い文豪、谷崎潤一郎の墓参りをするシーンも描かれる。谷崎の墓は2つ存在し、一つは東京の巣鴨にある慈眼寺、もう一つは京都市左京区の法然院の墓地にある。法然院は谷崎自身がモデルとされる卯木老人を主人公にした小説「瘋癲老人日記」のなかにも登場する。
「無駄がないわね」とシドニがコメントした谷崎の墓は、生前、あちこちの名刹を見て回った末に法然院を墓所とすることに決め、自ら選んだ自然石と桜で作庭した。鞍馬石の墓石2基のうち、左の墓石には「寂」、右の墓石には「空」の文字が彫られ、どちらも谷崎の自筆である。左側に谷崎と晩年まで共に暮らした三番目の妻、松子夫人、右側に松子夫人の妹、重子夫妻が眠っている。墓の横にある谷崎が植えた枝垂桜も有名。
歴史ある木造建築と大正ロマンの香りが感じられる晴鴨楼
シドニが京都で泊まる宿の一つが、鴨川から歩いてすぐの場所にある天保2年創業の老舗旅館「晴鴨楼」。畳に布団が敷かれた純和風の客室、歴史ある木造建築と大正ロマンの香りが感じられる内装などは外国人観光客にも人気。案内された部屋でシドニは、亡き夫アントワーヌが立っている姿を見て驚き、思わず宿から逃げだしてしまう。翌朝、ようやく事態を受け入れたシドニは、トランプをしていた幽霊の彼と初めてちゃんと話をする。
寺院の装飾を彷彿とさせる書林 其中堂
シドニがサイン会をする「書林 其中堂」は、京都の仏教書専門店。昭和漆喰の壁に、木製の欄干や欄間、瓦のひさしなど、どこか寺院の装飾を彷彿とさせる外観は、見るからに歴史を感じさせる佇まい。店内は木目の床、高い天井から下がった電燈、木製の書棚が落ち着いた雰囲気で、入り口の上には顧客だった哲学者、西田幾多郎の書「応作如是観」の額がかかっている。2階の倉庫へとつながる階段に、幽霊のアントワーヌが腰をかけ、シドニとファンの交流を見守ったり、記念撮影に飛び入り参加したりする様子が微笑ましい。
新選組誕生の地としても知られる金戒光明寺
無事にサイン会を終えたシドニと溝口は、金戒光明寺を訪れ、お菓子とお茶でひと休み。金戒光明寺は、法然上人が初めて草庵を結んだ地であり、浄土宗大本山。また、幕末の京都守護職を務めた会津藩主、松平容保が本陣を構えた寺で、新選組誕生の地としても知られる。シドニたちが座っているのは、源平の戦いの故事に由来する鎧之池を中心とした池泉回遊式庭園「紫雲の庭」。池を眺めながら、夫アントワーヌとの出会いを話すシドニと、「僕らは多かれ少なかれ、死者とつながっている」と応える溝口との会話が心に沁みる。