“体が欲していた味”を提供する安心感!海外でも人気の「孤独のグルメ」ヒットの理由を振り返る
輸入雑貨商を営み、仕事であちこちの街を訪れている井之頭五郎。そんな彼がその日の気分のままに立ち寄った飲食店で、一人きりの食事を楽しむ。一見、ただそれだけの話なのに、年代や国も超えて、多くの人を魅了する人気シリーズとなっているのが「孤独のグルメ」だ。
原作は1994年から2015年にかけて発表された原作・久住昌之、作画・谷口ジローによる同名漫画で、テレビドラマは2012年1月期にテレビ東京系でスタート。以後、同年10月期にSeason2、13年7月期にSeason3、14年7月期にSeason4、15年10月期にSeason5、17年4月期にSeason6、18年4月期にSeason7、19年10月期にSeason8、21年7月期にSeason9、22年10月期にSeason10が放送となっている。
また、16年1月と8月、17年1月にSP版、22年と23年には配信オリジナル作品が発表されていて、24年10月期には様々な人々に焦点を当てた「孤独のグルメ特別編 それぞれの孤独のグルメ」も放送。さらに2017年から毎年大晦日にはSP版が放送されていて、「孤独のグルメ」はいまや日本の年越しの定番になった。そして2025年、『劇映画 孤独のグルメ』(公開中)となって、ついにスクリーンに登場した。
主人公、井之頭五郎による心理も真理も突いたモノローグと食べっぷり
なぜこんなにも、「孤独のグルメ」は関心を得るのか。食欲をかき立てる“飯テロ”ドラマとも評される本シリーズ。深夜帯の放送で、取り上げられているのが実際の店とその料理とくれば、思わず吸い寄せられてしまうのは必至だろう。
ただ、なにより味わい深いのは主人公、井之頭五郎による独特なモノローグの数々だ。心理も真理も見事に突いていて、「カレーは強い。どこの国の誰と戦っても、最後は自分の世界に引きずり込んで、勝つ」(S2・11話)や、「塩からタレにいって、塩に戻る。塩に戻れる俺、大人だな」(S3・6話)といった名言は、もはや哲学の域。さらに、「うまい。いかにも”肉”って肉だ」(S1・8話)に至っては、これを超える焼き肉評はないのでは!?と思わされる。
セリフ自体はもちろん、演じる松重豊の滋味豊かな言いっぷり&食べっぷりがあってこそ、胃袋だけでなく心まで掴まれる。深夜の食事ドラマの先駆けともいえるのが安倍夜郎の同名漫画を原作とした「深夜食堂」シリーズ(2009~19年)だが、奇しくも松重は本作にも赤いタコウインナーをこよなく愛するヤクザの竜ちゃん役で印象を残している。
台湾、韓国など海外でも人気に
その「深夜食堂」同様、本作はアジアでも人気を誇っている。2015年には台湾で「孤独的美食家」としてwebドラマ化。同時期に放送された「孤独のグルメ」Season5の第4・5話では五郎の海外出張という形で台湾に出向いていて、趙文瑄(ウィンストン・チャオ)扮する台湾版の伍郎(ウーラン)との共演も果たしている。中国では中華料理が登場するたびにSNSが沸き、韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領もファンを公言していた。
また、ソウルで受賞式が行われる国際的に優れたドラマを表彰する「Seoul International Drama Awards 2018」において、「孤独のグルメ」は「The Most Popular Foreign Drama of the Year」を受賞。その韓国に五郎はSeason7で赴いているが、映画版に登場する舞台の一つにもなっている。同作で監督も務めている松重は、当初監督にオムニバス映画『TOKYO! <シェイキング東京>』(08)で組んだポン・ジュノに依頼していたという逸話もある。
韓国で支持を集めた理由としてよく言われるのが、“ホンパブ(ひとり飯)”の増加と“モッパン(食事動画)”の流行。元々、韓国にはおひとり様の食文化が浸透していなかったが、しだいに一人の気楽さや身軽さ、タイパやコスパの面からも孤食が認知されることに。そんななかでドラマが放送されたことからも、本作が韓国の食文化に与えた影響も少なくなさそうだ。