『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太×『みなに幸あれ』下津優太、「日本ホラー映画大賞」監督が語る、Jホラーの未来

インタビュー

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太×『みなに幸あれ』下津優太、「日本ホラー映画大賞」監督が語る、Jホラーの未来

新たな時代のホラー映画作家の発掘と育成を目的に、大賞受賞監督には受賞作のリメイクか完全オリジナル作品での商業監督デビューが確約される日本初のホラージャンル専門フィルムコンペティション「日本ホラー映画大賞」。その第2回で大賞に輝いた同名短編を長編化した『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』がついに公開となり、初日から満席が続出したことから初週に拡大公開、パンフ増刷が決定する異例の反響を呼んでいる。この公開を記念し、このたび“大賞受賞監督”同士の対談が実現。

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は公開中
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は公開中[c]2024 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会

「第1回日本ホラー映画大賞」で大賞に輝き、その受賞短編を古川琴音主演で長編リメイクした『みなに幸あれ』(24)で昨年商業監督デビューを果たした下津優太監督と、第1回では『その音がきこえたら』でMOVIE WALKER PRESS賞を受賞し、短編版『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で第2回の大賞を受賞した近藤亮太監督。制作の舞台裏からホラー映画には欠かせない“怖い”のつくりかた、そして今後の展望まで、2人にたっぷりと語り合ってもらった。

「『みなに幸あれ』には率直に、『そりゃあ勝てないか…』と思いました」(近藤)

清水崇監督の総合プロデュースのもと商業映画監督デビューを果たした2人。“誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている”という人類の宿痾ともいえる根源的なテーマを描く『みなに幸あれ』。看護学生の“孫”(古川琴音)は、ひょんなことから田舎に住む祖父母に会いにいく。久しぶりの再会に、家族水入らずで幸せな時間を過ごしていたが、どこか違和感を覚える孫。祖父母の家には“なにか”がいる。やがて彼女に、人間の存在自体を揺るがすような恐怖が迫ってくる。

“新次元Jホラー”と銘打たれた『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は、幼いころに弟が失踪してしまった過去を持つ兒玉敬太(杉田雷麟)のもとに、弟がいなくなった瞬間が映しだされた1本のビデオテープが送られてくることから始まる。霊感を持つ同居人の司(平井亜門)、失踪事件を追いかける記者の美琴(森田想)も巻き込み、彼らは人が消える“山”へと誘われていく。

――大賞受賞監督同士で顔を合わせる機会は?

近藤「僕が『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の撮影に入る前に、長編づくりがどんな感じだったのか訊くために渋谷で3時間くらいお茶しましたよね」

下津「そうですね。作品の規模感も共通していましたし」

近藤「でも話してみると、予算のやりくりも含めて、まったくやり方が違っていて。『そういうやり方があるのか』と驚かされました」

下津「なので僕からアドバイスしたのは、『いろんな人からいろんなことを言われるけど、自分のやりたいことを絶対やったほうがいい』ということぐらいです」

古川琴音演じる“孫”は、田舎の因習に抗おうとするのだが…
古川琴音演じる“孫”は、田舎の因習に抗おうとするのだが…[c]2023「みなに幸あれ」製作委員会

――「第1回日本ホラー大賞」の際に、お互いの作品を観て感じたことは?

近藤「率直に、『そりゃあ勝てないか…』と思いました」

下津「いやいや…(笑)」

近藤「自分の受賞結果はわかっている状態で授賞式に行ったので、もし大賞が中途半端な作品だったら納得できないと思っていたんです。いざ観たら、『大賞を獲るってこういうことなんだな…』と」

下津「そう言ってもらえるとうれしいですが、僕からしたら『その音がきこえたら』の攻めた長回しは、怖くてできないです。第2回の短編版『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』でさらにバージョンアップしていて、近藤監督の“色”になっていたと感じました」

近藤「第2回では『みなに幸あれ』の方向で勝負する人がたくさん現れると思ったんです。でも自分には真似できない。そもそもやろうとしていることが違うと判断したので、そっちでは勝負しないように意識的に意識しないようにしていました」

「短編づくりと長編づくりは、そもそも競技が違うという印象です」(下津)

【写真を見る】近藤亮太&下津優太、“怖さ”を生みだす秘訣とは?
【写真を見る】近藤亮太&下津優太、“怖さ”を生みだす秘訣とは?撮影/増永彩子

――お2人とも受賞短編を長編リメイク化されましたが、短編と長編ではどのような違いがありましたか?

下津「短編はおもしろい“点”がいくつかあれば成立するけれど、長編はそれだけではなく、一本の“線”で繋がっていないとダメなんだと感じました。競技が違うという印象ですね」

近藤「短編の時は2日間で撮影されたんでしたっけ?」

下津「そうです。1日5分ずつぐらいで、それが長編になると8日間で1日12分になりました」

近藤「たしかに競技が違いますね」

下津「僕はカットを細かく割っていくから時間がかかりましたけど、近藤監督はカット少なかったですよね」

近藤「めっちゃ少ないです。多いシーンでも8カットで、シーン数も60ぐらい。全体のカット数は1000を切っていました」

「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した同名短編を、近藤監督自ら長編映画化
「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した同名短編を、近藤監督自ら長編映画化[c]2024 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会

下津「カットが多ければ編集マジックができるから、僕は少ないと怖くてしょうがないんです。そこが強いなと。やっぱり脚本の段階で割り方を決めているんですか?」

近藤「いや、撮影前ですね。字でコンテのようなものを作って、カメラマンと話しながら、大体このぐらいのカット数でと決めていきます。それで撮影に入ると全部のカットを最初から最後まで撮って、使えるものがあれば使おうというやり方をしています」

下津「それは役者さんのやりやすさも考えてのことですか?」

近藤「それもありますし、単純に時間がなくてテイクも重ねられないので、ワンカットである程度流れていくほうがメリットも大きいからです。下津さんの場合は事前の準備をしっかりとして、コンテを作り込むじゃないですか。たぶん問題意識は同じだけど、解消法が違うんだと思います」

幼い頃に弟が失踪した経験がある敬太は、山岳ボランティアの活動をしていた
幼い頃に弟が失踪した経験がある敬太は、山岳ボランティアの活動をしていた[c]2024 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会

下津「近藤さんの脚本づくりのプロセスについて、教えていただきたいです」

近藤「こういう怖いシーンをやりたいとか、大きなパーツをいくつか出したうえで一度つなげてもらって、それを感覚ベースで擦り合わせつつディテールを詰めていく感じでした。僕と『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の脚本の金子鈴幸くんが気兼ねなく話せる関係だからできたやり方だと思います。でも実際には撮りきれなくて、10シーンぐらい削ることになりました」

下津「脚本の作り方っていろいろあるじゃないですか。まず人物を作ってからストーリーを作っていく人もいれば、ストーリーが先にあって人物を寄せていく人もいる」

近藤「映画美学校で高橋洋さんの授業を受けた時に、“主人公”、“問題”、“クライマックス”という3つの大きな柱を決めることが脚本を書く手前の作業だと習ったんです。僕は“主人公”だけが埋まらなくて、そこは金子くんと見つけていきました。短編と違って長編は主人公をしっかりと作ることが大事でしたし。下津さんはどうやったんですか?」


タイトルに込められた意味に、背筋が凍ることまちがいなしの『みなに幸あれ』
タイトルに込められた意味に、背筋が凍ることまちがいなしの『みなに幸あれ』[c]2023「みなに幸あれ」製作委員会

下津「僕は完全にストーリーを作りあげて、人物については全然掘り下げませんでした(笑)。でもそこは、古川琴音さんが主役を演じたからなんとかなったのだと思っています」

【『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』劇場用プログラム(パンフレット)情報】
■収録内容
近藤亮太監督 手記
インタビュー(清水崇、杉田雷麟、平井亜門、森田想、藤井隆、金子鈴幸)
解説:高橋洋、朝宮運河
書き下ろし小説:背筋「捨ててもいい場所」

■商品情報
発売日:2025年1月24日(金)
定価:¥1200(税込)
仕様:A6判(105✕148mm)/120P
発行・編集:株式会社ムービーウォーカー

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