『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太×『みなに幸あれ』下津優太、「日本ホラー映画大賞」監督が語る、Jホラーの未来
「ホラーを一過性のブームではなく、根強い文化にしたい」(近藤)
――肝心の恐怖シーンはどのタイミングでつくっていったのですか?
下津「僕はビジュアル的な分かりやすさに走っていたので、脚本の段階でした。近藤監督は?」
近藤「僕は脚本には抽象的なことしか書いていないんです。映像のムードやカメラのポジションなどで表現するしかないと思っていて、脚本は読んだ人がイメージしやすいように、映らないものまで描写しました。なので、現場でモニターを見ながら、その時に自分が怖いと思えるかを信じていました。怖くないと思ったら、一度立ち止まって検討するんです」
――お2人にとっての“怖い”の基準は?
近藤「感覚ですよね」
下津「ちょっとでも違うと思ったら、一つ一つ考え直すんですか?」
近藤「そうです。大体の場合はカメラのアングルやレンズのサイズだったり。無理やり言語化するならば、画面内を占めている人間以外の空間の総量だったりします」
下津「結構ロジカルにつくられているのかなと思っていたんですが、案外感覚的にジャッジしているんですね」
近藤「感覚から出発して、それがなんでなのかを考える感じだと言ったほうが近いかもしれません。逆に『みなに幸あれ』はなにをもって“怖い”を決めたんですか?」
下津「ベタなことをしたくないと考えて、逆をやってやろうと。それに飽きたら“逆の逆の逆”をやるようにしています。そうすると、単なる逆じゃなくなって別のものになってくるんです」
近藤「じゃあ発想する時は、定石を考えてからひねっていくと」
下津「正直、怖がらせようという気持ちよりも、逆をやってやろうという天邪鬼な気持ちのほうが強いんです(笑)」
近藤「なるほど(笑)。僕も10代の時ほどビビッドに“怖い”と思えなくなっているなと思うことはあります。でも最近はホラーじゃない作品を観ている時の方が、『これは怖いな…』と思う瞬間があって。この前、20年ぶりぐらいに『ゴジラVSビオランテ』を観たんです。ゴジラが登場する前に超能力を研究する施設の子どもたちが同じ夢を見たというくだりがあって、『みんなが見た夢の絵を見せてください』と言われて全員が一斉にゴジラの絵を見せる。これと同じことをホラー映画でやったらすごく怖いんじゃないかと、ホラーに変換しながら観ていました。そうやって観ると、意外と世の中は怖いものであふれています」
――“怖さ”はホラー映画以外にもあふれているんですね。
近藤「ホラー映画は構造上、怖い対象にガッツリ向き合わなくてはいけないけれど、大抵の場合、物語のうえで解明してしまえばその対象は怖くなくなるんです。『ゴジラ』がちょうどいいのは、ゴジラ自体は解明しなくてもいい存在で、そのぶん単発で恐怖描写がやれるということなんです。それは普通のアート映画でも同じで、ドラマを煮詰めていくと怖い瞬間は結構あって、最近の“怖い”ネタ探しはホラー映画からはしていないですね」
――今後も「日本ホラー映画大賞」発のホラー監督が次々と世に出てくると思います。お2人が期待していることは?
近藤「第3回で大賞を受賞した『夏の午後、おるすばんをしているの』の片桐絵梨子監督のように、それぞれの観点で“怖い”を作ってくれる人がたくさん出てきてくれるのが理想ですね。超怖い映画を作る人が多ければ多いほどいい。僕はJホラーブームをもう一度来させようとしていますから」
下津「波は来ていますよね。僕は自分がJホラーじゃないラインにいると思っているので、Jホラーをやる人たちがいるからこそ“逆”ができる。そこでホラー映画の幅を広げていければいいですね」
近藤「現状を一過性のブームではなく、根強い文化にすることが当面の役割だと思っています。僕らが手を取り合って旗を振っていきますので、みなさんどうぞついてきてくださいという気持ちです」
取材・文/久保田 和馬
■収録内容
近藤亮太監督 手記
インタビュー(清水崇、杉田雷麟、平井亜門、森田想、藤井隆、金子鈴幸)
解説:高橋洋、朝宮運河
書き下ろし小説:背筋「捨ててもいい場所」
他
■商品情報
発売日:2025年1月24日(金)
定価:¥1200(税込)
仕様:A6判(105✕148mm)/120P
発行・編集:株式会社ムービーウォーカー