公開30周年を迎えても色あせない衝撃作『セブン』。4K版IMAX上映にあたって、劇場で見直したくなる7つのトリビア

公開30周年を迎えても色あせない衝撃作『セブン』。4K版IMAX上映にあたって、劇場で見直したくなる7つのトリビア

4. 息詰まるクライマックスの3人芝居を支えたのは3人の代役だった

【写真を見る】「箱の中身」論争も巻き起こった衝撃のラスト…デヴィッド・フィンチャーの代表作となった『セブン』
【写真を見る】「箱の中身」論争も巻き起こった衝撃のラスト…デヴィッド・フィンチャーの代表作となった『セブン』[c]Everett Collection/AFLO

映画のクライマックスは、巨大な送電線の鉄塔が立ち並ぶ郊外の野原。ミルズとサマセット、ドゥの3人の芝居が、地上とヘリコプターからのロングショットで展開する。このシーンの撮影時、予算不足でヘリコプターでの撮影はスタジオの許可待ちの状態だった。地上シーンのラッシュを観たスタジオ側はヘリコプター撮影の予算を許可したが、その時すでに俳優たちの撮影は終わっていた。そこでフィンチャーは苦肉の策で、ロングショットは代役を使って撮影。ミルズとサマセットが手錠をかけられたドゥと歩く印象的なショットは、すべて別人だったのだ。なお鉄塔の下という設定は、周波数の乱れによってサマセットたちがヘリと無線連絡が取れないようにというドゥの作戦だった。このシーンの撮影時、実際フィンチャーはヘリコプターの撮影班と無線で連絡が取れず指示には携帯電話を使用。タイムラグに悩まされることになった。

5. リアルなリアクションが味わえるSWATの容疑者アパート突入シーン

ビジュアルとしてもショッキングな、一度観たら忘れられないSWATの突入シーン
ビジュアルとしてもショッキングな、一度観たら忘れられないSWATの突入シーン[c]Everett Collection/AFLO

映画の代表的なショックシーンが、容疑者である麻薬密売人で小児性愛者ビクターのアパートにSWATが突入するくだり。室内のベッドには骨と皮だけのミイラ状のビクターが横たわっていた。ところがSWAT隊長が顔を近づけると、突然ビクターは咳き込みゾンビのように動き出す。驚いた隊長は即座に後ろに飛び退くが、極めてリアルなリアクションをみることができる。実は隊長役のジョン・C・マッギンレーは、ビクターをリアルな造形物だと思い込んでいたのだ。完成した映画には、特殊メイクだと知らずにマッギンレーが顔を近づけたファーストショットが使われた。ビクターを演じたマイケル・リード・マッケイは、身長165センチの小柄で痩身な俳優。特殊メイクは第一人者リック・ベイカーの最初のアシスタントとして10代半ばから映画の現場で活躍し、『遊星からの物体X』(82)や『ロボ・コップ』(87)、『ファイト・クラブ』(99)の特殊メイクを手掛けたロブ・ボッティンが担当した。

6. 劇中で描かれる唯一の殺人は刑事による容疑者の射殺シーンのみ

“復讐”という名の殺人だけが、本編では直接描かれる
“復讐”という名の殺人だけが、本編では直接描かれる[c]Everett Collection/AFLO

ドゥの被害者たちは想像を絶する方法で殺害されたが、その殺害描写は描かれていない。そんななか、唯一の殺害シーンがクライマックス。妻を惨殺されたミルズによるドゥの射殺。刑事による殺害のみという皮肉な展開となる。このラストシーン、脚本では定年退職するサマセットが将来のあるミルズの代わりに引き金を引くことになっていた。ところが読み合わせの時に、ブラピは「ミルズがやらなければおかしい」と異論を唱え、フリーマンやフィンチャーらも同意し変更されたのだ。当初はミルズがドゥを射った直後にフェードアウトし終了となったが、テスト試写で陰惨すぎるなど不評だったことから、サマセットがミルズを思いやるエピローグが追加で撮影された。

7. 殺人鬼の偏執性が垣間見える衝撃のオープニング・タイトル

不気味なオープニングも話題を呼んだ本作。その映像を手掛けたのがタイトルデザイナーのカイル・クーパーだ。『ミッション:インポッシブル』や『ミミック』、近年は『GODZILLA ゴジラ』(14)などモンスターバースやマーベル映画、ドラマ「ウォーキング・デッド」などのタイトルを担当。細部までこだわったマニアックな演出で、ソール・バス(60年代を中心に活躍した第一人者)と共にタイトルデザインの重要性を世に知らしめた革命児だ。そんなクーパーが本作で題材にしたのが、ドゥが自身の内面や殺人についてつづったノートを作る過程。本編用にフィンチャーが撮った映像を使い、ドゥの執拗で几帳面、壊れた心の闇を描きあげた“名作”となった。

ミルズの妻トレイシーを演じたのは、グウィネス・パルトロウ
ミルズの妻トレイシーを演じたのは、グウィネス・パルトロウ[c]Everett Collection/AFLO

フィンチャー自身の監修のもと新たにオリジナルネガを使って4K修正された本作。フィンチャーこだわりの映像を含め、30年の時を経て古びていないどころかいまだ新鮮な強度を持つ『セブン』の魅力をスクリーンで味わってはいかがだろう。


文/神武団四郎

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