本年度アカデミー賞で、長編アニメーション賞、作曲賞、音響賞の3部門にノミネートされたドリームワークス・アニメーション最新作『野生の島のロズ』(2月7日公開)。日本に先駆けて公開された各国でヒットを記録し、米批評サイト「Rotten Tomatoes」では批評家スコア97%フレッシュ、オーディエンススコア98%フレッシュ(2月5日時点)と高い評価を記録している。
無人の島に漂着した最新型アシスト・ロボット、ロズが1羽の雁(ガン)のひな鳥との出会いを機に感情が芽生え、島の動物たちと交流を重ねながら、やがて島の危機へと立ち向かっていく感動の物語。監督は『リロ&スティッチ』(02)、「ヒックとドラゴン」シリーズで知られるクリス・サンダースだ。1月中旬に来日したサンダース監督と、昨年6月に公開されて大ヒットを記録し、第48回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した『ルックバック』の押山清高監督の対談が実現。MOVIE WALKER PRESSでは、白熱した日米の豪華アニメーター対談の模様をお届けする。
「やはり手描きの表現の代わりになるような技術はない」(サンダース)
押山清高監督(以下押山)「クリスさんの『野生の島のロズ』を観て、僕が最初に思ったのは、アメリカの3DCGアニメーションの映像表現がすごいところまで行っているということ。これまでもすごかったのですが、それが本作でさらにもう一段グレードアップしたという印象です。
『野生の島のロズ』の大きな特徴の一つである、自然を表現した手描きアニメーションが3DCGの映像と見事に溶け合っているのはすばらしいです。時間の流れ、季節の移り変わりによって様々な表情を見せる自然が色鮮やかに切り取られていて、しかもそれが主人公たちの物語と見事にシンクロしていました。いや、本当にすごい」
クリス・サンダース監督(以下サンダース)「それはとてもうれしい指摘です。ありがとうございます。アメリカでCG系のアニメーションが数多く作られるようになった当時、私はそれはいいことだと思っていました。一番大きかったのはカメラワークで、空間の中でカメラを自在に動かすことができるようになった。やっぱりカメラワークから観客の感情を揺り動かせると思っているからです。ただ、その一方で失ったものもありました。アナログならではのエモーショナルな温かさ、手描きやハンドメイドのものにしか備わっていない感覚のようなもの…それらを手放してしまったんです。
押山さんの『ルックバック』を観ると、そういうハンドメイドの魅力がたくさん詰まっていますよね。やはり手描きの表現の代わりになるような技術はないことを痛感しましたし、私は改めて手描きアニメーションを使える時がくるのをずっと待っていましたから」
押山「それがこの『野生の島のロズ』だったわけですね」
サンダース「そうです。テクノロジーがさらに進化したことで可能になった表現をドリームワークスはいち早く取り入れ、『バッドガイズ』や『長ぐつをはいたネコと9つの命』を作っていましたが、本格的に使ったのは本作でした。ついに限界を突破した感じでしょうか。
私は本当にラッキーだったと思います。本作を作り始めた時に、欲しくて仕方なかった技術が進化したんですから。私は、この作品の自然の表現に関しては手描きのルックじゃないとダメだと考えていました。独特の洗練されたタッチ、温かさや脆さ…そういうのは手描きじゃないと絶対に表現できません。それがないと『野生の島のロズ』の物語もみんなに伝えられないと思っていました」
押山「それは作品を観て、よく伝わってきました」
サンダース「押山さんの『ルックバック』も、物語の核になる部分には手描きの絵という要素がありますよね。私はあなたのこの作品を観て、ああ、同じような価値観を持っているアーティストなんだなあ、と激しく共感したんですよ」
押山「クリスさんはアニメーターとしてのキャリアを積んだうえで監督をされています。作品の中に絵描きが描いたタッチを残すという発想は、やはりアニメーター出身だからこそのアイデアではないかと感じたんですが、いかがでしょうか?」
サンダース「それは間違いないです。私にとって絵を描くことはとても重要で、自分がかかわる作品はできるだけ、私自身が絵コンテを切っています。時間的に全部は無理なんですが。いまの環境はとても恵まれていて、監督もして脚本も書かせてもらえる。でも、私はそれだけじゃやっぱりダメで、絵コンテも切りたいタイプ(笑)。そうすることで、作品のシーンの核となる瞬間に迫ることができます」