三山凌輝が語る『誰よりもつよく抱きしめて』が示す“愛の形”。「すべてを受け入れることが、愛するということ」

インタビュー

三山凌輝が語る『誰よりもつよく抱きしめて』が示す“愛の形”。「すべてを受け入れることが、愛するということ」

「子どものころよりも質の高い目線で、絵本に描かれていることを受け取れるようになった」

本作には、キーアイテムとして絵本が登場する。絵本に紡がれている言葉が、良城と月菜の葛藤に重なり、観る者の心にも大切なことを訴えかけてくる。三山は、ロケ地となった鎌倉の絵本屋で数冊の絵本を購入したといい、その内容に衝撃を受けたと興奮ぎみに語った。「これ、本当に子どもが読むの?というくらい、考えさせられるような言葉が書いてあるんです。ある種、人間の本質を捉えていると思う」と、絵本が持つ力を再発見したという三山。

月菜が働く書店は、鎌倉にある絵本屋がロケ地となっているそう
月菜が働く書店は、鎌倉にある絵本屋がロケ地となっているそう[c]2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

「大人が見たら“闇”だと感じるぐらい、“(衝撃を)食らう”という言葉が正解だと思います。人と関わるうえで大切なこと、優しさ、思いやりというものを、すごくきれいに描いているようで、実は奥深い表現をしている。でも、そう感じたということは、いろいろな経験や言葉を経たことで、僕自身が子どものころよりも質の高い目線で、絵本に描かれていることを受け取れるようになったからだと思う。自分が人としても成長していると、理解できた瞬間でもあった気がします」。絵本との再会は、自身の成長を実感する経験にもなったようだ。

「ある絵本では、これは“氷山の一角”を表しているんだなと僕は思ったんですけど」と、机上の資料を手に取って絵本に見立て、とくに印象深かった一冊について説明してくれた。「ページを開くと、地中海が描かれているんです。そこには、楽しんでいる人とか、魚釣りをしている人がいて。でも、そうして見えているのは実は全体の2割くらいで、さらに絵本を開いて海の下を覗いていくと、魚の骨があったり、サメがいたり、深く潜らなければわからなかったものがたくさん描いてある。『これ、恐ろしいな!』と思いました。目に見えているものだけがすべてじゃないと改めて思ったし、見えていないところにもちゃんと視点を当てること、“偏見”という言葉だけで終わらせないことの大切さを感じて、はっとしました」。

良城に寄り添い支えようとする月菜を演じた、久保史緒里
良城に寄り添い支えようとする月菜を演じた、久保史緒里[c]2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

本作の結末とそこにいたるまでの過程は、明確には描かれず、まさに冒頭で三山が語った通り、観る者に委ねられる。演じるにあたって、三山はどういうストーリーを描き、なにを大事に演じたのだろうか。そこに、先ほどの絵本の話も繋がっていた。

「人生って、さっきの絵本の話と同じで、主観的になってしまうことが多いじゃないですか。目の前にある壁しか見えず、それに苦しめられて悩むこともある。同時に、大事なものは失ってから気付くっていいますよね。それらを解決してくれるものって、僕は時間だと思うんです。時間が過ぎたことによって忘れてしまったり、少し感覚が薄れたり、“風化する”と捉えるのも、意外と大事なことである気がしていて。そのなかでも、やっぱり忘れられないもの、こうしたかったと思う気持ち…そういうものと、なんとなく一緒に生きていることもあるなかで、“変わらないものを変えていきたい”という、良城の少しずつの成長があってのラストシーンかなと思います」。変わってしまうもの、変わらないもの、変えていきたいもの、そこに平等に流れる“時間”。三山はそのすべてを、客観的かつ優しい視点で捉えていた。

「より作品に感情移入できる歌詞になったと思います」

絵本作家の良城は、強迫性障害による潔癖症で恋人にすら触れることができない
絵本作家の良城は、強迫性障害による潔癖症で恋人にすら触れることができない[c]2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

ラストシーンの撮影は全体の後半だったというが、ラストカットではなかった。しかし三山は、「人間としての成長というか、ある種強くなった瞬間みたいなものが出ていたかなと思う」と、良城が見せた表情について振り返る。「きっと、一番苦しかった時よりも少し解き放たれて、いろいろなことを深く広く受け止めることができるようになったんだと思います。大人っぽく、少し落ち着いて見えるのは、それが理由かなと思うし、その背景にもやっぱり、時間の経過があったんじゃないかと思いますね」。

本作に、切なさや優しさ、ぬくもり――そうした余韻を残すのは、BE:FIRSTが歌う主題歌「誰よりも」。主演だけではなく、グループとして主題歌も担当することは、「芝居をやり切ったあと、最後のギリギリで決まった」という。三山は同曲の作詞にも参加しているが、演じ切ったタイミングだったからこそ書けたものだったと話す。

「自分が撮影を通して見たもの、感じたもの、感情をそのまま歌詞にすることで、より作品に感情移入できる歌詞になったと思います。そのうえで、心理的にも物理的にも、“触れられない”って、いろいろな人が経験していることだと思う。いい意味で抽象的な歌詞だし、“抱きしめたい”“触れられない”という言葉は、映画を観ていない方にも伝わるものだと思います」。


【写真を見る】主演作で「その場で生きること」を貫いた、俳優・三山凌輝を撮りおろし!
【写真を見る】主演作で「その場で生きること」を貫いた、俳優・三山凌輝を撮りおろし!撮影/友野雄

最後に、「正直、僕個人としては、この作品がハッピーエンドとは思わない」と付け加えた。「この先に、またいろいろなことがあるだろうし、不安はぬぐえないと思う。でも、うまくいってくれるといいな。演じていて、そう思いました」。良城と月菜を、優しく見守るように演じたラスト。スクリーンで、感じたままに受け取ってほしい。

取材・文/新亜希子

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