「風に吹かれて」「天国への扉」などなど…時代や人物の背景を象徴するボブ・ディランの名曲は映画でどのように使われてきた?
「Girl From The North Country」
「北国の少女」こと「Girl From The North Country」は、アイルランドの劇作家コナー・マクファーソンによって同名の舞台にもなった楽曲だ。
マクファーソンがメガホンを握った映画版『Girl From The North Country(原題)』(24)はもちろん、本楽曲が印象的に登場するのが『世界にひとつのプレイブック』(12)。心に傷を負った男女の交流を描いた本作で、ティファニー(ジェニファー・ローレンス)が社交ダンスのパートナーとなったパット(ブラッドリー・クーパー)に対し、夫の死の理由を告げたあとにこの曲をiPodから流す。
互いに見つめ合いながら曲を聴いたあとに行うダンスレッスンを重ねるモンタージュのBGMともなっており、ディランとジョニー・キャッシュのハーモニーはまるで距離を縮めていく2人のよう。温かみのあるサウンドが2人を包み込む、心を揺さぶられる名シーンだ。
「Like A Rolling Stone」
ボブ・ディラン最大のヒット曲として知られる「Like A Rolling Stone」。“a complete unknown”という歌詞の一節が、映画のタイトルにもなっているように、ディランを語るうえで外せない代表曲の一つ。
この曲を使用しているのが、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、ウディ・アレンという3人の巨匠が、それぞれニューヨークをモチーフに物語を紡いだオムニバス『ニューヨーク・ストーリー』(89)の一篇で、スコセッシ監督が画家と弟子の関係を描いた『ライフ・レッスン』だ。
音楽を聴きながら絵を描く主人公の画家ライオネル(ニック・ノルティ)が、 心惹かれている弟子のポーレット(ロザンナ・アークエット)と口論をしたあと、イライラしながらラジカセで大音量で流すのが「Like A Rolling Stone」。ディランとザ・バンドがコンサートで演奏しているバージョンというのも、芸術家のライオネルの情熱的なキャラクター性を感じられる。
「The Man in Me」
カルト的な人気を誇るコーエン兄弟による『ビッグ・リボウスキ』(98)。デュードことジェフリー・リボウスキ(ジェフ・ブリッジス)が誘拐事件に巻き込まれる様子をコミカルに描いた本作では「The Man in Me」が二度も使用されている。
一度目はボーリング場でのオープニング。そして二度目はデュードが気絶し、飛んでる空から落下したり、小人になってボーリングの球に襲われたりする悪夢を見ているシーンだ。”俺はまだ本気出してない感”あふれる歌詞とデュードのダメ男ぶり、さらに能天気なメロディがなんとも作品の雰囲気にマッチしている。
「Knockin’ on Heaven’s Door」
最後に紹介したいのが、「天国への扉」こと「Knockin’ on Heaven’s Door」。余命わずかな男たちの海を目指す旅路を描いたドイツ映画、その名も『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』(97)のラストで流れるSeligによるカバーもいいが、『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(73)を推したい。
年老いた保安官のパット・ギャレットが、友人である無法者ビリー・ザ・キッドを追跡して殺すまでを描いたサム・ペキンパーによるこの西部劇。「天国への扉」は、中盤、無法者に撃たれた老保安官ベイカー(スリム・ピケンズ)が、妻に見守られながら死を覚悟するシーンで流れ、どこかせつないサウンドと夕陽の美しさが相まった劇中屈指のエモシーンとなっている。なお音楽を担当したディランは出演も果たしており、若かりし日の演技を楽しめるのもファンにとってはうれしい。
数えきれないほど多くの映画で使われてきたボブ・ディランの楽曲。いろんな作品に使われているので、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を機に、どの映画でどんな使われ方をしているのか、ぜひチェックしてみてほしい。
文/サンクレイオ翼