『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太監督と「或るバイトを募集しています」くるむあくむが語り合う、次世代の“恐怖”のつくりかた

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太監督と「或るバイトを募集しています」くるむあくむが語り合う、次世代の“恐怖”のつくりかた

「自分にとって怖いと感じられる画になっているのかを大事にしている」(近藤)

ーー日常や現実と地続きになった恐怖を描いているお2人が、作品をつくるうえで気を付けていることは?

近藤「僕の場合は本業としては演出なのですが、つくる時には脚本も書くことが多いです。脚本を書く時にはなるべく集中して、怖い想像ができる環境を整えるようにしています。なるべく怖い想像をするというか、少なくともいま自分が書いている文字が怖いと信じられるようにするとか、それは撮影をしている時も同じです。モニターに映っているワンカットワンカットが、自分にとって怖いと感じられる画になっているのか、その都度、その瞬間を怖く感じるかを大事にしています」

くるむ「僕の場合は“不条理”を否定しないということですね。ホラーに限らず、ストーリーづくりには順序だったり、矛盾が出ないことを気に掛けるじゃないですか。でも現実でなにか怖いことがあっても、その答え合わせはないんです。自分の身に降りかかるできごとは基本的に不条理なものだと思っていて、くるむあくむの作品においても答えは約束されているものではないという心掛けを常にしています」

近藤「考える時ってなにから決めていますか?」

くるむあくむ「いわゆる“ゼロイチ”ってやつですか?」

近藤「そうです、僕は『この状況でこれをやったら怖い』という、大喜利めいたものが多いんです。夜の山のなか、ここで失踪した人の声をカセットテープで聞いていますとか、そういうのからまず考えることが多くて。あとはYouTubeとかを観て、『怖いな』とか『いいな』と思った表現を映画でどうやってやるかという発想につなげることもあります」

くるむあくむ「それでいうと、くるむあくむとして活動する前から、“日常のバグ”みたいなものが頭の片隅にずっとあったんです。基本的に社会のなかで人の行為は流れがある。でもそのなかではみ出すから目に留まる。最近は『これがこうなったら怖いんじゃないか』と考えることもあるんですが、根本にあるのはいままで見てきたこの世界のバグのストックを使っているという感じですね」

近藤「ちなみに、くるむあくむさんって怖がりですか?」

くるむあくむ「僕はビビリですね。怖がりです。逆に近藤さんは絶対ビビリじゃないですよね?」

近藤「正直あんまりないんですよね、怖いという気持ちに積極的になろうとはしているんですけど…。心霊スポットに行っても、怖いと思うことはあっても『もう無理!』となることは全然なくって」

くるむあくむ「それなのに怖がる人の心情を書いているのって、どうやってやっているんですか?」

近藤「もう想像しかないんです。こういう気持ちなんだろうと。それは怖いものに限らず、脚本なり演出なりをするうえでは一人一人のことを想像するしかないので、がんばって想像しています」


VHSを使った恐怖表現が、近藤監督作品の持ち味の一つ
VHSを使った恐怖表現が、近藤監督作品の持ち味の一つ[c]2024「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会

ーー『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はVHSがテーマになっている作品ですが、くるむあくむさんの作品にもVHSが出てきますよね。

くるむあくむ「近藤さんは『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』に限らず、いままでの作品でもVHSを活用されているじゃないですか。聞いたところによると、一度本物のビデオテープにダビングして、そこからもう一回データに起こしているのだとか」

近藤「そうです。リアルに20年前にテレビ番組を三倍録画して劣化しているビデオテープに、現在のデジタル映像をダビングしてつくっています」

くるむあくむ「その活用方法は僕には思いつきませんでした。僕は編集ソフトで色味を作ったり、デジカメを使ったり、10年ぐらい前のカメラを使ったりするんですけど、その理由としては、自分の意図とは違うダメージが視覚的に表現できることですね」

近藤「先日、『フィルムエストTV』のにしい監督にもトークセッションにご登壇いただいたんですが、にしい監督も映像ソフトで加工しているとおっしゃっていました。僕からしたら逆にどうやってんの?って思ってしまいます。そういうの本当に詳しくなくて、逆に教えてほしいぐらいです」

くるむあくむ「でも近藤さんのように、本当のビデオテープにデータを移して生の質感を活用する方法には敵わないと思います。本当に生なんですか?」

近藤「生VHSです(笑)。中学生ぐらいの時に、金曜ロードショーでブルース・ウィリス主演の『ハドソン・ホーク』を放送していて、友だちがそれを録画してくれたビデオテープがまだ残っているんです。毎回その上にダビングしているんですが、やっぱり中学生の時ってアクションシーンを繰り返し見るじゃないですか。そこが一番ノイズが乗っているので、うまく重なるように録画しはじめるという工夫をしています(笑)」


「もっとJホラーを楽しもう!トークセッション」では、近藤監督が6名のホラークリエイターたちとトークを繰り広げてきた
「もっとJホラーを楽しもう!トークセッション」では、近藤監督が6名のホラークリエイターたちとトークを繰り広げてきた

くるむあくむ「実は僕はVHSの世代じゃないので…」

近藤「ということは、VHSを使った表現自体、いまのリバイバル的に使われているもので摂取してきた感じですか?」

くるむあくむ「そうですね」

近藤「それって実際どうなんでしょう?大森時生さんの『このテープもってないですか?』みたいに、VHSの映像が怖いと表現されたものを観た時に、どうやって受け止めているんですか?」

くるむあくむ「純粋に怖いとは感じます。世代じゃなくても、懐かしく感じさせるような質感があることはわかるんです」

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