韓国スリラー映画の“お約束”をアップデートしたボディチェンジ・アクション『デビルズ・ゲーム』をより楽しむためのポイント
容赦ないリアリティと様々な工夫を凝らしながら発展してきた韓国映画のスリラージャンルに新星が誕生した。3月7日(金)に全国劇場公開される『デビルズ・ゲーム』だ。SFやファンタジー映画の定番である“ボディチェンジ”をテーマに、画期的かつ予測不可能な展開で観客を惹きつける本作。ラストに待ち受けるドンデン返しをじっくり堪能するために抑えておきたいポイントを解説していこう。
ソウルでは連続殺人事件が起き、人々を震撼させていた。捜査中に彼らに後輩を殺された刑事ジェファン(オ・デファン)は、犯人グループのジニョク(チャン・ドンユン)らを執拗に追っていた。ついにジニョクを追い詰めたジェファンだったが、揉み合いになった末に意識を失う。ジェファンが目を覚ますと、何とジニョクと身体が入れ替わってしまっていた!絶望するジェファンを前に、不敵な笑みを浮かべるジニョクは彼の家族を人質に、自分を警察に売った仲間を見つけ出すよう脅す。言われるままに仲間を探していくジェファンだったが、事件には想像を超える真相があった――。
『オオカミ狩り』プロデューサーと名スタッフが手掛けたリアルなシーンに戦慄!
本作には、韓国のスリラーにつきものとなっているグロテスクなシーンがふんだんに盛り込まれている。ジニョクが率いる殺人集団は、実際に人を殺めている映像をダークウェブ(一般的にはアクセスできない匿名性の高いインターネット領域)にアップロードしている卑劣極まりないグループだ。オープニングクレジットでは、楽しそうに死体を切断するという、彼らの残忍な様子が生々しく捉えられている。サイコパスのジニョクが、何の躊躇いもなく刃物を被害者の体に突き立てる姿は戦慄しかない。
裏切り者の仲間の居場所を吐かせようと拷問するシーンも凄まじい。電流を流す、耳を切るといった暴力の手つきには“絶対許すまじ”というジニョクの復讐心がこれでもかと感じられる。容赦ないゴア描写で日本のホラーマニアを虜にした『オオカミ狩り』(23)のプロデューサーが手掛けただけあり、死体や自らの身体をネオンカラーによるサイケデリックなメイクや、背後で流れるシンセサイザーの不気味な音楽などケレン味もたっぷりだ。ちなみにオープニングで流れる曲は作品の重要なキーアイテムとなるのでぜひ注目してほしい。
そして『オオカミ狩り』でも寡黙な凶悪犯に扮した、ジニョク役のチャン・ドンユンは、ジニョクについて「趣味のように殺人を楽しんでいるのではないか」と解釈。役作りのヒントとして「以前自分が趣味として好きだったバイクに乗る快感を考えた」そうだ。そうしてなりきったサイコパスの殺人鬼の姿が、作品をスリリングに盛り上げている。
スピード感溢れる怒涛の展開&ハードなアクションで魅せる
さらに韓国映画のお家芸、スピーディーな展開と共に繰り広げられるハードなアクションも健在だ。ジェファンとジニョクによるカーチェイスからの、闇に包まれた山の中での追走が観客を作品の殺伐とした世界に引き込む。トイレや路地裏といった狭い場所での格闘や、刃物を使った接近戦の緊迫感は、これまで韓国アクションジャンルが培ってきたパワフルな肉弾戦をきっちり踏襲していて、ファンにはたまらない出来栄えだ。
本作のように別の誰かと体が入れ替わってしまう映画やドラマは、これまで韓国でも作られてきた。たとえばいじめられっ子の高校生と一流財閥の社長パンスがひょんなことから入れ替わってしまう『僕の中のあいつ』(18)は、境遇も性格も違う二人がまったく違う体になることで生まれる違和感や人間関係をコメディタッチで描いた。サスペンスジャンルでも、交通事故で記憶を失った男が実は12時間ごとに違う人間の体に入れ替わる体質になっていたことから起こる「スピリットウォーカー」(21)は、別々の人間になり変わりながら事件の真相に挑んで行くスリリングさが特徴的だった。そもそも“身体が入れ替わる”という現実に起こり得ない設定は、かなり工夫をしなければ荒唐無稽で終わってしまう。そんな綱渡りのような舞台装置を描き切ってしまうブルドーザーのような豪胆さが、韓国映画の魅力でもある。
さらに『デビルズ・ゲーム』は、そうした韓国映画の王道ネタをスリラーの中に取り込んだ点が新機軸だが、もうひとひねりを加えた筋立てにしている。ジニョクに操られたジェファンは、“裏切り者を突き止めないと家族の命はない”と脅され、勢い余って仲間を半殺しの目に合わせてしまう。唯一身体が入れ替わったことを知る相棒ミンソン(チャン・ジェホ)は、どこか恐怖も含む眼差しを向ける。兄貴分として慕ったジェファンのはずだが、彼はこんなに残酷だったのだろうか…?ミンソンの意味ありげな眼差しは、私たちの平凡な性格の中に実は潜在的な邪悪さが眠っているのではないかという疑いを観客に提示する。善良な心が悪の身体に宿ることで善と悪のカオスを見せながら、“本当に悪魔は誰なのか”という問いを突きつけているようだ。ジェファンと、彼を「ヒョン(兄貴)」と慕うミンソンの兄弟分のような関係性も韓国映画によく見られるが、それがどのように変化していくのかも注目だ。
韓国映画の王道と新機軸が融合した『デビルズ・ゲーム』。ぜひこの衝撃を映画館で体感してほしい。
文/荒井 南