賞レースを席巻する『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー。「『戦場のピアニスト』での経験が本作に活かされた」
今年のアカデミー賞で10部門ノミネート。作品賞でも最有力のひとつとされる『ブルータリスト』(公開中)は、第二次世界大戦のホロコーストを逃れ、ハンガリーからアメリカへわたったユダヤ系の建築家、ラースロー・トートの物語。いとこを頼ってペンシルベニアに向かったラースローは、ある富豪との出会いをきっかけに、一大プロジェクトを任される。“ブルータリズム”という建築様式で、価値観の異なるアメリカ人を相手に斬新なデザインを提案するラースロー。一方で彼は、ヨーロッパに足止めされたままの妻と姪を、なんとかアメリカに呼び寄せようとする…。
30年におよぶ激動の運命で、ラースローを演じたのはエイドリアン・ブロディ。やはりホロコーストを生き延びる役の『戦場のピアニスト』(02)でアカデミー賞主演男優賞を史上最年少で受賞した彼が、22年の時を経て、再び俳優人生のハイライトというべき役に巡り合った。今回も主演男優賞にノミネートされたアカデミー賞授賞式を前に、『ブルータリスト』にかけた思いなどを単独インタビューで聞いた。「東京から(from Tokyo)のインタビューです」と伝えると、「僕はニューヨーク出身(from New York)のエイドリアンです」と、お茶目な答えが返ってくる。
「俳優にとってこの役はすばらしい“旅”になると確信できた」
上映時間が215分という壮大な作品ながら、インディペンデントなので製作費は1000万ドルという低予算の『ブルータリスト』。チャレンジングな企画にもかかわらず、ブロディが出演を決めたのは、脚本だったという。「初めて脚本を読んだのは、いまから5年くらい前です。心の底から感動しました。ラースローのキャラクターは複雑でありながら共感できる部分を発見でき、俳優にとってこの役はすばらしい“旅”になると確信できたんです。この仕事を続けていてわかるのですが、こうした複雑で意味深い作品に出会うチャンスは、じつに稀なケース。そのうえで傑作になる可能性も信じたので、是が非でも出演したいと思いました」。
「傑作になる」という確信はどこから生まれたのだろうか。そんな質問を投げかけると、ブロディは丁寧に言葉を選んで、次のように答える。「このような人生を送っていると、常に過剰な期待をかけられますが、僕はそうした期待に対して慎重になる傾向があります。そこで心がけるのは、常になにか意味のある作品を残そうとする努力。自分に託された役割を果たし、ほかのみんなも同様の姿勢を持つことで、完全な一体感が生まれる。その願いが叶った時に、傑作が誕生するのではないでしょうか。そして実際に『ブルータリスト』ではブラディが、成し遂げられると期待していたこと以上の成果を収め、とても美しく、かつユニークな作品を仕上げてくれました。そのことに僕は心から感銘を受け、彼の作品の一部になれたことに満足しているのです」
「ブラディ」とは、監督のブラディ・コーベットのこと。ブロディが語るとおり『ブルータリスト』は監督の手腕が高く評価され、ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞(監督賞)に輝いた。コーベットは『シークレット・オブ・モンスター』(15)、『ポップスター』(18)に続き、本作が長編監督3本目。子役時代から俳優として活躍し、監督に転身して世界的巨匠の地位についたことになる。ブロディにとって、どんな監督だったのだろうか。「僕はブラディの過去の映画をすべて観ていました。そこで感じたのは、彼の“先見の明”です。常に新しいことにチャレンジする姿勢にリスペクトを感じました。彼の監督作の映像や俳優たちの演技も僕の好みでしたね。そんな過去の作品を経て『ブルータリスト』で、ブラディは新たな高みに到達したわけです。彼の“センシティビティ=感受性”が本作の核心で、そこに僕は共振しました。この共振が特別な作品を導いたのでしょう。ブラディは俳優経験も長いので、僕らにとても協力的。役に入り込めるスペースを十分に与えてもらった印象です。彼との仕事はすばらしい体験でしたね」。