ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が明かす、ハリソン・フォード登場シーンのこだわりとは?
SF映画の金字塔『ブレードランナー』の35年ぶりの続編『ブレードランナー 2049』が、いよいよ公開となった。前作の主演であるハリソン・フォードが、再びブレードランナーのデッカード役に挑む。映画ファンにとって興奮せざるを得ない、奇跡のプロジェクトだ。
前作から30年後の世界とはどんなものなのか?デッカードはその後、何をしていたのか?期待と好奇心を大いにくすぐる本作のメガホンを取ったのは、『メッセージ』でアカデミー賞にノミネートされたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。プレッシャーを乗り越え、圧倒的な世界観を作り上げたヴィルヌーヴ監督にインタビューし、デッカード登場シーンに込めた思い。映画作りで掲げる“3つのメソッド”について聞いた。
本作の主人公は、人造人間=レプリカントを解任する業務をこなす“ブレードランナー”のK(ライアン・ゴズリング)。ある事件をきっかけに、Kが30年前に行方不明となったデッカードを探す旅に出る姿を描く。「オリジナル作品にものすごく影響を受けた」と話す“ブレードランナー・ファン”のヴィルヌーヴ監督にとって、「緊張や恐怖があった。ものすごくプレッシャーを感じていた」ともちろん大きなプレッシャーと戦うことになった。しかし前作のメガホンをとったリドリー・スコットから、「君が好きなように作っていい」との信頼を得て、大きく背中を押されたという。
リドリーも認めたヴィルヌーヴ監督の才能。本作で映し出されるのは、圧倒されるような未来のビジョンだ。2049年の世界をどのようにイメージしていったのだろうか。「核として考えたのは、地球上のエコシステムが崩壊して、気候変動も起きている世界だということ。ものすごく過酷な状況になっていると考えたんだ。とても荒々しい気候なので、建築物もすべてその過酷さに耐えうるようなデザインをイメージした。悪夢的に暗い世界だけれど、そこに美しさを加えることも大事だと思っていた」。
その言葉通り、荒廃し、孤独すら漂う世界だが、その物悲しさが美しくも感じられる。驚くべき映像の数々も、なんと「なるべくグリーンバックは使わないようにしている」とCGを極力使わないのがヴィルヌーヴ流。「現実的なセットを作ると、俳優たちもその環境に入り込むことができる。何より、僕と(撮影監督の)ロジャー・ディーキンスが、そのセットをものすごく楽しんでいたんだ(笑)。実際の環境を目にすると、ものすごくアイディアが湧き出てくる。バーチャルでも映画を作れる監督は尊敬するけれど、僕は古風な男なんだ」。
「Kのアパートの窓から見える街並みも実際に作っている。エロチックな石像が出てくるシーンも、実際にあの石像を作ったんだ」とヴィルヌーヴ監督。「撮影に行くことに、毎日ワクワクしていた。本作には、60年代に(フェデリコ)フェリーニが作った映画に出てくる世界に入ったような雰囲気もある。僕はそうやって、あれこれとアイディアを考える時間が大好きなんだ」とワクワクとする環境を作ることで、どんどんその世界に入り込んで行くという。
とりわけ本作で注目を集めるのが、前作にも登場したデッカードの登場シーン。「Kとデッカードがどのように出会うかは、ものすごく重要なシーンだ。ロジャーと何週間もかけて考えたよ」とこだわり抜いたシーンとなった。「このシーンについては、すべて絵コンテに起こして考えた。まず彼のあのいい声が聴こえてくる。そして、暗い中からスッと顔を出す…。『彼だ』と感じられるようにね。あのシーンの出来に、ものすごく満足しているんだ」と胸を張る。
「傑作」と言われる前作から、自らのセンスを注ぎ込み、見事に新たな『ブレードランナー』の世界を作り上げた。前作がそうであったように、クリエイターたちの心を刺激するような作品を完成させたヴィルヌーヴ監督の“映画作りのメソッド”とはどんなものなのか?「まず、壮大なものは小さなディテールから生まれると思っている。2つ目に、俳優を箱の中に閉じ込めないこと。俳優を自由にして、キャラクターを自分自身で探してもらうんだ。そして、カメラの前で彼らが輝く瞬間を撮ろうとすること。そんなことを大事に思っているよ」。
『ブレードランナー』がパワフルである理由を、「ミステリーが残されているから」と語るヴィルヌーヴ監督。一体、どんなミステリーが解き明かされるのか。ぜひ大スクリーンで堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】