シネマ・コンサートとして鮮明に蘇った“伊福部サウンド”に樋口真嗣が大興奮!
今年で第30回という節目の年を迎えた東京国際映画祭の記念企画として31日、東京・有楽町の東京国際フォーラム・ホールCで「『ゴジラ』シネマ・コンサート」が開催され、歴代の「ゴジラ」シリーズに携わったクリエイター3人が登壇。ゴジラ音楽にまつわる裏話や、今なお広く知れ渡っている印象的なテーマ音楽を生み出した偉大な作曲家・伊福部昭への想いを語った。
ゲストとして登壇したのは、昨年大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』を手がけ、新たなゴジラ映画のスタイルを世に送り出した樋口真嗣監督、平成ゴジラシリーズに携わった富山省吾プロデューサー、そして同じく平成ゴジラシリーズに音楽プロデューサーとして携わり、このシネマ・コンサートを企画した岩瀬政雄氏の3人。
映画の迫力そのままに、オーケストラの生演奏で体感する「シネマ・コンサート」は、映画にライブ感をもたらす新しいエンタテインメントとして注目を集めている、映画の新しい楽しみ方だ。これまでも「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」など、テーマ曲が印象的な作品を中心に開催されてきた。日本映画では現在、野村芳太郎の『砂の器』と、今回上映された1954年版の『ゴジラ』のみがこの方式で上映可能なのである。
その理由について、岩瀬は海外と日本の映画マーケットの差による、作り方の違いを解説。「音楽とセリフが別々のトラックに録音された海外では可能だが、日本の場合はほとんどの作品でひとつにまとめられてしまっている」と、セリフや効果音を残した上で、音楽だけを生演奏にするというシネマ・コンサートの難しさを明かした。
一方『シン・ゴジラ』の劇中で定番のテーマ曲に加え『怪獣大戦争』(65)や『キングコング対ゴジラ』(62)など多くの伊福部音楽を取り入れた樋口は、その経緯について語った。「総監督をした庵野秀明が、脚本のト書きの時点で曲をすべて指定してきたんです。だから、脚本の段階でもう音楽は流れていたんですよ」と特撮への造形が深い総監督のエピソードを明かすと「個人的には『モスラ対ゴジラ』が合うんじゃないかなと思ったところもありましたが」と、本音を漏らした。
さらに『ゴジラ』1作目で最も気に入っている音楽の付け方を訊ねられると、何度も劇場で鑑賞してきたことを楽しそうに振り返った樋口。誰もが知っているラストシーンに触れながら、子供の頃に思っていた気持ちと大人になってからの感じ方の違いなどを興奮気味に語り「今まで隠れていた音楽の力が、こんなにも鮮やかに蘇るなんて!」と、シネマ・コンサートの魅力を喜びに満ちた表情で述べた。
平成ゴジラシリーズのプロデューサーとして、伊福部昭のもとに直談判に訪れた時のことを振り返った富山は、「『ゴジラ』(84)から新しいことをしようと思っていたのだけれど、『ゴジラvsビオランテ』(89)のときに、伊福部先生のゴジラテーマこそがゴジラにふさわしいと改めてわかってしまった」と、名匠が手がけた音楽の偉大さに打ちのめされたエピソードを披露。
そして富山は「まるで『ハリー・ポッター』の校長先生のように博学で、全てを知っている方」と、伊福部の人間的な魅力について振り返った。「映像と音楽の違い。映像は瞬間で、音楽は長さが必要だということを言っていた。まさしく、そういう意味で、映画音楽を熟知されていた方だった」と、今は亡き名匠を讃えた。【取材・文/久保田和馬】