春映画はどうなる?プロデューサーが明かす『映画キラキラ☆プリキュアアラモード』好調の背景
10月末より公開中の人気シリーズ最新作『映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』は、10月28・29日の週末動員ランキングで堂々1位で初登場を飾り、翌11月4・5日の集計でも4位(1~3位はすべて新作)と、好調な成績を維持している。初登場1位という好成績は『映画スマイルプリキュア!絵本の中はみんなチグハグ!』(12)以来、5年ぶり2度目の快挙である。この好調な作品は、いかにして制作されたのか?その魅力をひも解くべく、東映アニメーションの内藤圭祐プロデューサーを直撃した。
クライマックスまで“明るく、楽しい”を貫く
シリーズ通算23作目の劇場版(春映画も含む)。週末動員初登場1位を記録し、現在も上位に食らいつく本作。内藤Pによると、今回はあらためて意識し、改革してみたことがいくつかあったようだ。
「劇場版は大抵、独立した物語のなかにシリアスな展開、激しいバトル、そしてクライマックス…と、てんこ盛りの70分で。そのクライマックスが、メインターゲットの3~6歳のお子さまには映画館という特殊環境もあって怖く感じられたりもするんです。今回は、そのクライマックスのクライシス感を、暗く、怖くではなく、カラフルで鮮やかな画で“楽しいけど混乱している”感じにしたいと、全編を通して“明るく、楽しい”を第一に考えて、お子さまが最後まで笑って観られる映画にしたいという思いがありました」
今作では、天才パティシエのジャン=ピエール(声:尾上松也)と一緒に行動する謎の妖精クック(声:悠木碧)が、プリキュアたちを前例のないピンチに陥れる。だが、画が暗闇に包まれたり、おどろおどろしい敵が登場する…という見せ方は、確かに一切ない。
「特に今シリーズはプリキュアが6人いて、華やかで、ポップで可愛らしいので、彼女たちのテイストも、そんな映画のコンセプトによく合うのでは?と、企画の初期段階から話し合っていました」。
そもそも秋の劇場版は、どれぐらいから企画が練られているのだろう?
「今回は、昨年の12月くらいから話し始めていました。2月のTVシリーズの放送開始前ですが12月にはTVシリーズの脚本も何話分か仕上がっていて、夏くらいまでの構成が見えてきます。その動きと並行して映画の話を作り始める感じです。TVシリーズの担当プロデューサーと“このキャラクターを軸に映画を作りたい”とか“このキャラクターの背景はTVでどこまで描くつもりか?”など、TVシリーズとのバランスを相談・調整しつつ、今回なら追加キャラクターであるキュアパルフェ=キラ星シエルの修業時代を映画で深掘りしよう…という感じで決まりました」
映画の盛り上がりをTVへ“還元”する
少なくとも1カ月は映画館で上映される作品は、先述の通り、毎週毎週ストーリーが進むTVシリーズから独立して楽しめるエピソードになっている。だが「ここ数年、TVと映画の連動意識も高まっている」ともいう。
「ジャン=ピエールがTVにゲスト出演したり、映画の前日談を描くなど密な連携を図りました。興行をしっかり成功させるには当然、映画館への集客が第一です。ですが、映画の盛り上がりがTVに還元できたらという意識もあります。そういう意味でもTVシリーズなら大よそ3話分相当の尺でキャラを掘り下げるのは、TVシリーズの今後を見据えても大事なミッションだったと思います」
また、映画単体で完結する展開にはプリキュアと対峙するゲストキャラクターの存在も大事になってくる。
「ジャン=ピエールはシエルと対になる存在です。2人共スイーツ作りへ孤独に向き合っていましたが、シエルはTVシリーズで“仲間がいるから強くなれる”ことを学びました。このことは今作のクライマックスでも触れられます。一方ジャン=ピエールは孤高のスタンスを貫きます。どちらが正解という話でもありません。シエルと仲間の関係を、ジャン=ピエールと対比させて彼女たちの成長を描きましたが、だからと言ってジャン=ピエールを悪役にはできません。そこで第三の存在としてクックが誕生しました。見た目から可愛らしいキャラクターですが、彼女は彼女のスタンス・信念がありました。見た人の受け止め方に委ねるところではありますが、最後には“クックも救われたのでは?”と思わせる余地もあるかと思います」
秋映画に“先輩プリキュア”が初登場
また今作で子供たちとファンを驚かせたのが、前作「魔法つかいプリキュア!」(16-17)のプリキュアたちがカメオ出演したことだろう。いわゆる“ドリームスターズ”的な春映画では歴代シリーズのプリキュアの共演が定番になっているが、秋映画では初の試みだ。
「楽しい要素を詰め込んで“お祭り感”を出したいと考えた時、映画ならではの“スペシャルな試み”のひとつとしてカメオ出演させてみました。毎年お子さまたちは新しいプリキュアを好意的に受け入れてくれますが、昨年応援していたプリキュアがちょっぴり出てきたりすると、それはそれでうれしいサプライズになるはず。着ぐるみのミュージカルショーなどでは、後半によく先輩プリキュアが何人か登場して、お客さんがとても盛り上がるんですよね。そういう感じですね(笑)。必ずしも春映画がオールスター、秋映画が単体…とすみ分けなくても良いんじゃないか?と僕は思っています」
内藤Pの話のように『映画プリキュア』シリーズには春と秋で“共演と単体”というすみ分けがなされ、秋映画は夏休みや冬休みなどと被らない期間ながら興行面で健闘してきた。
「“秋のお祭り”として定着しているのかなとは思います。夏休みや年末年始のほうが競合作が多くて大変そうですよね(笑)。毎年2月に放送が始まって翌月には春映画、3クール終盤~最終クール序盤ごろに秋映画というサイクルなのですが、秋映画は毎回いろいろな見せ方に挑戦しています。春映画の時はまだ初々しい新米プリキュアを、秋映画は30数話を積み重ねた彼女たちのチームワーク感、成長感をお見せできる。TVともリンクした映画を年2本も作れて、恵まれたシリーズだなって思いますね」
映画だからこそのリアリズム
本作は、序盤からエッフェル塔の下でプリキュアたちが目まぐるしくアクションを展開。手に汗握るバトルをスクリーンでじっくり楽しませてくれる。
「“スクリーンならではの見せ方”を土田豊監督が汲み取り演出されています。土田監督は『映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』(16)以来、劇場版の演出は2作目で、前回はミュージカル調という制約下での演出でしたが、今回はのびのび演出されているなと感じていました(笑)。TVシリーズのファンタジックな背景とは対照的に、エッフェル塔や凱旋門などリアリティあふれる実際の街並みが描き込まれました。まさにスクリーンでこそ映える画です」
劇場版でパリが登場するのは、『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』(10)に続き2度目だったりもする。
「前回は“ファッション”モチーフで描いた街を、今回は“スイーツ”モチーフでどう描こうか、そういう意識は土田監督から強く感じていて、実際、まったく違う新しい演出で楽しませてくれたと思います。この機会に『ハートキャッチ』と見比べて楽しんでもらうのも面白いかもしれませんね」
そして、映画のエンドロール後、2018年春公開の劇場版のタイトルが『プリキュア スーパースターズ』であることが解禁された。内藤Pにそのことを伺うと…。
「『プリキュア』はいま、TVシリーズ、春映画、秋映画それぞれプロデューサーが別なので、次の映画の担当は僕ではありません。ですが『キラキラ☆プリキュアアラモード』や(TVシリーズを担当した)『魔法つかいプリキュア!』が登場するので、どんな映画になるのか僕自身も楽しみにしています(笑)」【取材・文/トライワークス】