『彼女が目覚めるその日まで』原作者が喜びの来日「感謝の気持ちでいっぱいです」
『キック・アス』などのクロエ・グレース・モレッツが、原因不明の難病と闘う女性を演じた『彼女が目覚めるその日まで』(12月16日公開)のトークショー付き試写会が12月5日、東京・飯田橋の神楽座で開催。自身の闘病生活を綴った本作の原作者であるスザンナ・キャハラン氏と、劇中に登場する病に詳しい東大病院神経内科助教の作石かおり氏が登壇した。
本作は、2009年に「抗NMDA受容体脳炎」という病にかかったスザンナの手記を原作にした感動の実話。憧れのニューヨーク・ポストで働きはじめた彼女は、順風満帆な日々を送っていた。ところが突然、幻覚や幻聴に悩まされ、全身が痙攣する発作をおこしてしまう。しかし検査の結果は「異常なし」。精神の病だと決めつける医師たちを尻目に、彼女を愛する人々は原因を究明しようとするのである。
「感謝の気持ちでいっぱいです。東京までやって来られるなんて、夢にも思ってなかった」と、来日の喜びをあらわにしたスザンナ。「闘病中はどん底の日々で、自分の経験がこうして意義深いものになっていた経緯を考えると感慨深いです」とコメント。
彼女が患った「抗NMDA受容体脳炎」とは「自己免疫疾患の範疇に入るもの」と作石助教は語る。脳の神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体に自己抗体ができることにより、脳に炎症を引き起こしてしまい、統合失調症にも似た症状が出てしまう。そのため、存在が認識されていなかった時代は“悪魔に取り憑かれた”と考えられていたのである。ウィリアム・フリードキン監督の名作ホラー『エクソシスト』(73)のモデルになった少年が、この病にかかっていた可能性も言われているほどだ。
上映後に行われたティーチインでは、実際にこの病に関わっている来場者から、多くの質問が寄せられた。去年「抗NMDA受容体脳炎」を患いリハビリ中の女性から「この病気にかかって、大変だったことや、良かったことがあれば教えてください」と質問されると「去年闘病して、もう良い経験だと言えることは素晴らしいと思う」と、コメントするスザンナ。
そして「私の場合は自分の経験を客観視するのに時間かかった」と気丈な笑顔を見せたスザンナは「この辛い体験をくぐり抜けたことで、目的意識を持って人生を送る決断を得られたことができた。この病気への認知度を高めて周知させていくということを一生懸命にやっていく。それが自分の人生で一番の変化だった」と語った。
続いて、この病と向き合っている医大生からは「プライベートの部分をさらけ出してまで、ご自身の体験をシェアした理由は?」と訊ねられ「自分の書いた記事に大きな反響があり、体験談を語らなければならないと強く感じた」と明かすスザンナ。実際に、彼女が原作の出版前に書いた記事は、まだ認知度の低かったこの病の存在を知らしめる効果があったようで「日本でも相当数の報告が出た時期でしたので、反響はありました」と、作石助教は振り返った。
また、会場には今年発足したばかりの「抗NMDA受容体脳炎」患者会の代表者が来場。「もっともっと多くの方にこの映画を観ていただきたい」と語ると、スザンナは「患者会を作って交流されているのは、とても大事なことだと思います」とコメント。
「1人では戦えないし、家族だけでも戦えない。大きなコミュニティが必要。対話・交流を広めていってほしい」と語り「本作は、この病を体験することがわかってもらえる作品になっております」と、この病の認知を深めるためのひとつひとつの取り組みによって、少しでも多くの患者が救われることへ願いを込めた。
取材・文/久保田和馬