ジョン・ウー監督&福山雅治、『マンハント』に込めた想いと舞台裏を語る!
1976年に高倉健主演で映画化された西村寿行のベストセラー小説『君よ憤怒の河を渉れ』が40年の時を経て、『レッドクリフ』でおなじみの鬼才ジョン・ウーの才腕により甦った。中国の名優チャン・ハンユーや、福山雅治らアジアを代表するスターの競演で作られた注目作『マンハント』(2月9日公開)の魅力を、監督と福山雅治に聞いた。
『君よ憤怒の河を渉れ』は公開時、日本のみならず中華圏でも大ヒットを飛ばした。監督も当時この映画を観て惚れ込んだ観客の一人。「健さんとはいつか一緒に仕事をしたいと思っていたので、亡くなられた時はとても悲しく、残念だった。せめて健さんにオマージュを捧げる作品を撮りたいと思っていた矢先、この企画と出会ったんだ」と、思い入れを込めて振り返る。
異国・日本で無実の殺人罪を着せられた中国人の弁護士ドゥ(チャン)と、彼を執拗に追い詰める日本の刑事・矢村(福山)。この2人が攻防を繰り広げながら真相に迫っていく。「この映画を撮るにあたり、改めて原作を読んだが、いまに通じる新鮮な作品だと思った」と監督は語る。そんな彼が矢村役に抜擢したのが福山雅治だ。
「ジョン・ウー監督とはCMの仕事でご一緒させていただいたことがありますが、映画でもお仕事をさせていただくことになるとは思ってもいませんでした。もちろん“映画の話も来るといいなあ”と夢想はしていましたが、一方ではありえないと思っていたので、お話をいただいた時は本当に驚きました。若いころから監督の作品は観させて頂いていて、ハードなアクション・シーンの印象があるので、現場で厳しい方なのだろうと思っていました。でも実際には、とても穏やかで紳士的。それでいて役者のクリエイティブな部分を尊重してくださる。監督として人間として心から尊敬できる方です」。
そんな福山に監督も賛辞を惜しまない。「福山さんは映画のために建設的な提案をたくさん出してくれた。セリフの言い回しを含めて、キャラクターに合ったアイデアをたくさん出してくれたおかげで、矢村という役はより生き生きとしたものになったね。それに現場での福山さんは、みんながお互いに気持ちよく仕事ができるよう気を配ることも忘れない。とても感謝している。ほとんどのアクションを自分でこなしたこともね」。そのアクションだが、福山はチャンと手錠に繋がれた状態で走ったり、戦ったりなどのハードな演技に挑戦。「最初は動きが制約されるから、ただでさえ難しいアクションがさらに難しくなるだろうと感じていました。でも手錠という制約があるからこそおもしろいアイデアが生まれ、チャンさんも僕も必死に芝居をして、それが映画に必要な緊張感につながっていったと思います」。
監督の作品は単にアクションが派手なだけではない。すべてはドラマのために機能する。そのドラマこそが監督のもっとも観てほしいところだという。「最大のテーマは、これまでの私の作品と同様、“正義”と“友情”だ。生き方も背景も異なる敵対関係の2人の男が、正しいことをしようとするうちに絆で結ばれる。その熱を感じてほしい。いつもと違うのは、尊敬するアルフレッド・ヒッチコックのスタイルを意識して、緊迫感を高めたことだね。いままでの私の映画とはテイストが違う作品になったと思うよ」。
これには福山も同意する。「日本映画にはないスケールの大きさと、アクション・シーンはもちろんですが、やはりドラマの魅力が大きいんじゃないでしょうか。分かり合えない状態にあった男たちが協力し合い、大きな問題を解決していく、そこに普遍的なテーマが込められていると思います。昨今、一人で何でもできるような仕組みが世の中では作られていますが、人と人が助け合わなければできないこともあり、むしろそうすることで物事はより良い方向に転がっていくということを教えてくれる映画だと思います」。
文/有馬楽