『リズと青い鳥』で描かれる女子同士の危うい友情を山田尚子が解説!「女の子の秘密を隠し撮りしたような映画」
吹奏楽に懸ける高校生たちの青春を描いた小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」を劇場アニメ化した、京都アニメーション制作の『リズと青い鳥』が4月21日(土)より公開。それに先がけ、山田尚子監督と原作者・武田綾乃登壇のスペシャルイベントが4月11日に開催された。
本作はTVアニメや劇場版も制作された「響け!ユーフォニアム」の完全新作。高校3年生のオーボエ奏者みぞれとフルート担当の希美が織り成す、儚くも美しい思春期の心の機微を描いている。
まずは、本作をいち早く鑑賞した武田が「青春の色々な要素をギュッと詰め込んだ、余韻がいつまでも残る作品です!」と興奮気味に感想を述べると、山田も「武田先生のとても透明感があって匂い立つような文章を何とか映像化しました」と笑顔で答える。
続いて、みぞれと希美、2人の少女の物語を描くことになった理由について、山田が「武田先生のプロットを拝見した時、みぞれと希美の関係性に女の子の秘密を覗き見したような感覚を抱きました。感情を包み隠さない、きれいごとじゃない文章に惹かれましたね」とその経緯を振り返る。
本作で描かれている思春期特有のきらめきや儚さについて話が移ると、「思春期の悩みや願い、思いは美しいと感じます」と語る山田。続く武田も「すぐに過ぎ去ってしまう美しいものを作品に押し込めたいと思っています。今回の映画を観て、私が描きたい空気感などを緻密に鮮明に描かれていると思い感動しました」と本作の鮮やかな感情表現に感銘を受けたようだ。
みぞれと希美は親友同士でお互いを“好き”でありながら、その気持ちには微妙なズレをはらんでいる。その距離感について山田は「例えば、大好きな友達がいるとして、その友達への思いは信頼であったり、不安であったりと違いがあると思います。きれいなだけじゃない、みぞれと希美のやり取りを通じて、共感するところがあると思います」と説明する。
さらに、みぞれと希美の関係性を描く上でこだわったところを聞かれた山田。「女の子同士の、内に秘めた思いを隠し撮りしたような映画なので、気持ちとしてはガラス越しに彼女たちを覗いている気分」と映像表現について説明。また、音楽についても「劇伴の牛尾憲輔さんがモデルの学校に行き、備品を叩いた音などをサンプリングして、学校にある音から音楽を作っています。みぞれや希美の周りを囲む音を体験していただきたいです」と劇伴の制作秘話についても語っている。
劇中ではみぞれと希美の物語と対に、本作のタイトルでもある童話「リズと青い鳥」の物語も展開される。原作小説に童話の世界を取り入れた、自身も吹奏楽部出身という武田は「学生時代にアンデルセン童話をもとにした楽曲を演奏する機会があったのですが、その際に原作を読んで世界観を理解してから音楽に取り組むように言われたんです。吹奏楽をやっている人に共感してもらいたくて、このエピソードを入れました」と自身の部活動の経験を基にしたことを明かす。それを受けて映像化した山田は「みぞれと希美の物語と童話の世界がリンクするところが映画的だと思いました」と童話の世界を映画にも取り入れた理由を説明した。
最後に、夢を追いかけている人たちに向けてメッセージを求められた2人。「自分の中で限界を決めるのはもったいないと思います。何かを生み出した時点で作品はでき上がっているのではないでしょうか?表現したいと思う気持ちをあきらめずに持ち続けてください」と山田。一方の武田も「学生時代に友達が私の作品を読んでくれたことが創作のきっかけでした。人に見せたり、認めてもらうことで得られる何かがあると思います。その衝動を大事にしてください」と観客へエールを送り、トークショーはなごやかに終了した。
高校3年生という一瞬のきらめきを切り取った『リズと青い鳥』。誰もが感じたことのある、青春時代のせつなさや痛みを確かめてみてほしい。
取材・文/トライワークス