【リズと青い鳥 特集】監督・山田尚子が明かす「言葉にすると壊れてしまう」思春期女子の繊細な友情
第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション賞などを受賞した映画『聲の形』(16)の京都アニメーション制作で、同作のスタッフが再結集した『リズと青い鳥』(4月21日公開)。本作の監督である山田尚子にキャラクターの印象や演出方法について語ってもらった。
映画的なみぞれと希美の関係性
本作は吹奏楽部に所属する高校生たちの姿を描いた小説が原作で、TVシリーズや劇場版がそれぞれ2度制作された「響け!ユーフォニアム」の流れをくむ完全新作だ。
「初めて原作を読んだ時、メインのお話と本作の主人公であるみぞれと希美の物語がきれいに2つあるように感じました。どちらも一緒にするよりは別々に描きたいと思っていた時に、『リズと青い鳥』の話が決まりました。女の子2人にフォーカスする物語はいつか取り組みたいと思っていた題材だったので、とてもうれしかったですね」とTV版などにもシリーズ演出として参加した山田監督は、制作された経緯を振り返る。
本作では、本来のメインキャラクターではなく、サブキャラクターであるオーボエ担当のみぞれとフルート担当の希美の物語を主軸に置いている。その理由について山田監督は「みぞれや希美について、まだまだ何かをやり遂げたいという原作者である武田綾乃先生の熱い思いを感じました。また、2人の関係がすごく目立っていて、映画的な印象も受けましたね」と説明しており、原作の中の2人に強烈なインスピレーションを受けていたようだ。
高校3年生のみぞれと希美は親友同士でありながら、卒業や進路といった局面を迎え、お互いの関係が少しずつ変化していく。2人の印象について「なんでしょう?2つの思念体のようなものでしょうか?予定調和では動かない、和音と不協和音がギリギリの状態で成り立つ、音楽のような映画ができあがると思いました」と語り、作品のイメージが“音楽のような2人の関係”だったことを明かす。
求めるものがはっきりした雑味のない信念
彼女たちの性格をどのように捉えていたかを伺うと「自意識がしっかりした子たちですね。自身のほしいものやなりたいものがすごくはっきりしています。みぞれにとって希美は吹奏楽部に誘ってくれた存在で、彼女が自分を構成するすべてだと思っています。対して、希美は音楽の才能そのものや、音楽が好きな自分を大切にしています」と性格の違いを説明しながらも、「2人ともそれ以外には興味がありません。みぞれには音楽の才能があって、希美も人望があるのに、それらに関心がないのです。頑なというか、そういう雑味のない信念が彼女たちを作り上げています」ともしており、ある意味で共通の価値観を持っているようだ。
みぞれと希美は仲が良さそうに見えるのだが、どこか言葉が嚙み合わない微妙なズレもはらんでいる。「希美は少し男っぽいというか、『好き』とか『嫌い』とか、物事をはっきり伝えないと理解できないタイプなんだと思います。だから、みぞれの情念っぽい話にも疎い。2人の気持ちが伝わらないところは、女の子同士というより彼氏彼女の関係を描くイメージでした」と一筋縄ではいかない微妙な距離感の描き方を明かしてくれた。
実写のような“間”と、心情にリンクする音楽
本作の特徴として女の子同士の自然なやり取りや、実写作品のような言葉と言葉の“間”が挙げられる。「作り手の主観が入らないように彼女たちを客観的に捉え、人と人との自然なやり取りを心がけました。何か適当なことを言っているのではなく、会話の嚙み合うところも、嚙み合わないところも、彼女たちに嘘がないように注意しました」。続けて「彼女たちの心の機微は言葉にしてしまうと壊れてしまう気がして、絵だけでも思いを伝えられるように“間”を大事にしていました。すごく繊細な作業だったので優秀なスタッフのおかげで、みぞれと希美の絶妙な空気感を描くことができたと思います」とアニメーションで繊細な表現を行うことの難しさも説明する。
また、劇中音楽も本作を語る上で重要な要素となる。「デカルコマニーという、インクをたらして、それを紙に転写してできる模様のイメージで、劇判の牛尾憲輔さんが音楽を作ってくださいました。左右の模様は一見同じに見えるのですが、全く同じ物ではない。みぞれと希美も親友に見えるけど、完全に嚙み合っているわけではない。そういった関係性を音楽で表現できればと思いました」と音楽がみぞれと希美の心情にリンクしていることを明かす。
最後に本作の見どころについて尋ねると「音楽との融合、音楽のような映画になっていればいいなと思います。みぞれと希美が奏でる音楽を楽しんでください」と笑顔で答えてくれた。
青春という一瞬の輝きの中で、少女たちが苦悩し、前に進む姿を描いた本作。誰もが感じたことのある、少女たちの心の機微を劇場で確かめてみては?
取材・文/トライワークス